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公開フォーラム「砂漠化対策と農業振興」
橋本龍太郎名誉広報官 2006年6月5日

(序文)
只今ご紹介にあずかりました橋本でございます。今日,こうしてお話しする機会を与えくださりましたGLOBE Japan谷津会長・国際農業開発基金(IFAD)ファルハナ・ハク・ラーマン広報課長はじめ皆々様に冒頭、心から御礼を申しあげます。この公開フォーラム「砂漠化対策と農業振興」が、このように開催する事ができました事を、「国際砂漠・砂漠化年名誉広報官」といたしましても大変うれしく思っております。

(今までの経緯)
先程、谷津会長がご挨拶の中でも述べられておられましたが、私は昨年まで地球環境国際議員連盟(GLOBE Japan)の会長を務めさせていただき、谷津先生はじめ多くのメンバーとともに長年仕事をさせて頂きました。その間、京都議定書採択やG8環境大臣会合への提言等、日本及び世界の環境問題に対して各国の国会議員、国際機関等と連携を組みながら、諸問題解決のために邁進してまいりました。東京大学及び国際農業開発基金(IFAD)とは昨年夏の愛知万博開会中に「先住民と天然資源管理・農村開発とよりよい環境を目指して」と題し、国連館にてセッションを持たせていただきました。国際農業開発基金のレナート・ボーゲ総裁や砂漠化対処条約ハマ・アルバ・ディアロ事務局長は古きよき友人であります。現在は国連「水と衛生に関する諮問委員会」の議長として、NPO法人日本水フォーラムの会長としてあらゆる水問題の解決に向けて力を注いでおります。水問題と砂漠化は表裏一体のものであり、その様な関係からこの度ご指名を頂いた次第であります。

(名誉広報官の役割と今後の日程)
まず初めに、まだあまりピンと来ない方もいらっしゃるかと思いますので、国際年の経緯、名誉広報官の役割そして今後の日程につきまして簡単にご説明をさせて頂きます。2003年に開催された第58回国連総会において、砂漠化対処条約が発効をして10周年を迎える本年を「砂漠と砂漠化に関する国際年」と決定いたしました。これは、現在の砂漠化の進行及び貧困の根絶に関する「ミレニアム開発目標」の達成に向けて、国際年として定めることにより、砂漠化問題や被害を受ける地域の生物多様性、知識、伝統を保全していく必要性に関し国際社会の認識を高める事を期待するものでありました。現在名誉広報官は私を含め世界で4人おります。メンバーは 2004年にアフリカ人女性初のノーベル平和賞受賞者であるワンガリ・マータイ・ケニア環境副大臣、アルジェリアのシェリフ・ラフマニ環境大臣・ブルガリアの著名なサッカー選手で現在はナショナルチームのコーチでもあるストイチコフ氏、そして私です。今後も他の名誉広報官と連携を強化し世界の砂漠化防止への道筋がより一層明確なものとなるように尽力していこうと思っております。また今後の予定といたしましては、本年8月25日に国連大学にて行われます国際会議「砂漠とともに生きるU砂漠化対処における乾燥地科学とガバナンス」や8月27日、鳥取県にて「乾燥地科学と砂漠化対処に関する国際シンポジュウム・今、ひとりひとりができること」と称して、東京大学・鳥取大学・外務省・環境省等と連携を取りながら開催を予定しております。9月には第61回国連総会にて何らかのアクションをおこす計画もございますので、ご興味のある方は私のホームページ等ご確認ください。

(砂漠化問題の提起)
さて、アジア地域を見回してみましても干ばつ又は砂漠化は深刻な問題です。耕作可能な乾燥地における砂漠化地域の割合の3分の1以上はアジアです。しかしこの現実を知り、危機感を持って接しているアジアの人々はいったいどれぐらい、いるのでしょうか。深刻な干ばつ又は砂漠化の現実に直面しながら暮らしている人たち以外の人間が深刻さに気が付かなければ、この危機的な状況を変えることは出来ません。世界で砂漠化の影響を直接受けている人々は2億5千万人いると言われております。そしてその多くが貧困民です。1日あたりの所得が1ドル以下の貧困民を2015年までに半減させるという「ミレニアム開発目標」を達成させる為にも、この砂漠化問題に効果的な対策を講じていくことは極めて重要な施策の1つなのです。

(砂漠化の要因)
砂漠化の要因は、気候変動等の様々な影響を受けていると考えられておりますが、森林伐採、過放牧、過耕作、過剰な灌漑、過剰な農薬の散布等が起因するものも非常に大きいのです。持続可能な開発のための枠組みの中で、砂漠化に対処し、干ばつの影響を緩和するための戦略及び優先順位を確立することが必要なのです。その為には、現地政府や専門家、そして影響を受けている人々への徹底した意思統一と綿密な調査を行うことにより、目先の潤いよりも先を見据えた行動が必要です。私は専門家ではございませんので細かいことまではお話することができませんが、一度荒地になった土地を元に戻すには荒廃していく過程の数倍の努力と費用が必要なのです。

(日本の状況1)
日本におきましても毎年春先になりますと約4000キロ離れた中国大陸から黄砂が偏西風にのって上陸してきますが、報道によれば、中国では昨年一年間で東京都の半分の面積に当たる地域が砂漠化し、私が日本国際貿易促進協会の会長として訪中していた本年4月 17日には、北京で30万トンの黄砂が1日で舞い降りたとの知らせを受けました。翌日、日本の気象庁の発表によりますと、日本国内55地点以上で黄砂の飛来が観測され、千葉市では18年ぶり、東京都心では6年ぶりでした。中国や韓国では既に黄砂による目や気管支系の疾患を訴える患者の数や、交通が遮断される事例が増える一方で、精密機械工業への悪影響等も懸念されております。

(日本の状況2)
先日、用事の為に訪れた熊本でも黄砂等の影響で、あの美しい阿蘇山脈を眺めること無く、東京へ戻ってまいりました。写真を趣味とする私にとって、春先にみどりの牧草が生い茂った阿蘇山の1ショットを写すことが出来ない事ほど残念なことはありませんでした。また、福岡空港等でも航空機体への黄砂の付着が確認されたとの報告がありました。このような状況の中、日本国民はこの黄砂の意味するものを果たして理解しているでしょうか。世界の紛争やテロリズムの根底には、砂漠化によってもたらされる貧困問題が関係しているのではないかと考える人は多くはありません。

(日本の状況3)
一方で、日本のカロリーベースの食料自給率が40%であると言う事は皆様もご存知だと思います。60%もの食糧を海外に依存しているわけですが、日本の食品廃棄物が年間約2000万トンもあるという事を、皆様はご存知でしょうか?日本の年間の米の生産量が約900万トンですから、数字からもお分かりの通り米の年間生産量の2倍以上もの食糧が捨てられているのです。私が運営委員会の会長を務めました「第3回世界水フォーラム」では、バーチャル・ウォーターと称して穀物等の農産物や工業製品を生産するまでに使用されるであろう水の量を測りました。その結果、日本は世界最大のバーチャル・ウォーター輸入国であり、その量は琵琶湖の4倍にもなるとの結果が出ました。全ての食糧やこのバーチャル・ウォーターが乾燥地帯から輸入をされているわけではありませんが、この地球上で限られた水資源の恩恵を日本に暮らす我々が大きく受けているのは明白であり、恩恵を受けられない国々に対して支援をする事は国際社会の一員として果たすべき役割ではないでしょうか。

(農業の重要性)
本年3月にメキシコにて第4回世界水フォーラムが行われましたが、その合間を見つけて私は「国際トウモロコシ・コムギ改良センター」(CIMMYTシミット)を視察してまいりました。ここはノーベル平和賞を受賞したボーローグ博士が受賞前から勤めていた研究機関であり、小麦・イネの品種を改良に改良を重ね、やがて「緑の革命」と呼ばれるに至った原点の場所です。コムギ一つの遺伝子が1億人の生命を救ったと言われております。農業は社会安定そして平和の基盤であり、開発途上国にとって最大の産業は農業であり社会発展の指導的役割を果たしているのです。だからこそ誤った開発は地盤の腐敗を招き、農村は荒廃し、やがては砂漠化していく。そして荒廃は社会不安を招き、先程も述べましたがテロの温床となる可能性を含んでいるのです。我々は人間の英知を最大限活用し農業開発を行うと同時に環境を復元させる事により貧困撲滅を進めなくてはなりません。世界は農業そして食を通じて繋がっています。だからこそ世界の何処かで異常が生じると、他地域へ間接的に、あるいは直接的に影響をするのです。現在日本そして国際農業開発基金(IFAD)はこのCIMMYT(シミット)と連携をして国際的な支援を行うという大きな役割を果たしております。本日のテーマである砂漠化対策分野におきましても、同じように我々の英知を結集させれば、農業振興と砂漠化対策を効果的に実施していく事は十分可能であると私は考えております。

(砂漠化対策への重要性の訴え)
森や森林を守り、水資源を大切にし、畑や田んぼといった耕地を大事にしながら我々に必要な食料をまかなっていく事が、我々が地球環境と共生していくためには重要な事なのです。私は日中国交正常化30周年の年である2002年に一万人の訪中団とともに北京郊外にて植林を行いました。今は現地の方々がその木々を守り、新たに自分達の手で植林の面積を増やしてくれております。私のした行為は砂漠に一滴の水を落としたに過ぎないかもしれません。しかしそれによって現地の方々がその意味を考え、その大切さを考え、森林の大切さを知る一つのきっかけになってくれれば有難い。そんな思いを込めて手がけた事業の一つです。本日の会合では乾燥地・砂漠化の影響を受けている地域で緑地化事業等に携わっている方々が興味深い話をしてくださると思います。皆様にはそうした方々の話を通じて、何故、干ばつ及び砂漠化対策が重要なのか?砂漠化対策としての農業振興支援にはどのような意味があるのか?そして我々ひとりひとりに何が出来るのか?このような事を共に考え、こうした活動に声援そして支援を送って頂ければと思っております。

(最後に)
私は名誉広報官の一人として「アジア地域から世界へ」この干ばつ又は砂漠化が引き起こしている様々な諸問題の解決に向けて、広くアピールをしていきたいと考えております。我々には魔法の杖と言うものはありません。全世界の一人ひとりの努力が、この地球上の砂漠化を防止する事のできる唯一の手段です。我々の子ども、孫の世代の人たちの為に、より良き地球環境を残していきたいと切に願い、私のご挨拶とさせていただきます。

ご清聴有難うございました。