第4回世界水フォーラムにおける
橋本龍太郎国連水と衛生に関する諮問委員会議長挨拶

ここで国連水と衛生に関する諮問委員会の議長として再び皆様にお話できること、そして諮問委員会のこれまでの議論と活動の集大成である諮問委員会行動計画をこの場で発表できることを大変嬉しく思います。

2003年、コフィアナン国連事務総長が、彼にアドバイスを行い、そして共に水と衛生に関する国際目標の達成に向けて世界に働きかける、この諮問委員会の議長を依頼されたとき、私は正直重い役割を担わされたと思いました。20名の諮問委員は政治や財政、行政機関や研究機関、労働組合、NGO、公営民営の水道事業など広い分野の背景を持つ人達から成り立っています。ひとつの行動計画を作ろうとする中で、ものの見方や視点の違いが時には激しい議論を生み、意見を衝突させました。しかし、世界はよりよい水資源管理を行い、貧しい人達を始め、より多くの人々に、緊急にきれいな水と衛生を供給しなければならないという共通の思いが、合意に至る原動力となりました。

 

皆様のお手元にある行動計画「ユア・アクション、アワ・アクション」は、水資源、水供給と衛生に関して、世界が直面している問題に突破口を切り開こうとするものです。ユア・アクションは鍵となる行動主体が取るべき行動を、時には名指しで指し示しています。アワ・アクションは委員会が全体で、あるいはそれぞれの委員が、国際目標達成を阻む障壁や障害を取り除くために、鍵となる行動主体と共同で取っていく行動を示しています。この行動計画のために私たちは6つの主要分野を選びました。資金調達、水事業体パートナーシップ、衛生、モニタリング、統合水資源管理、水と災害の6つです。

資金調達は、水と衛生に関する利害関係者の殆どが関心を寄せている課題だと言えます。安全な水と衛生サービスがただでは供給されない以上、政府は必要なシステムの構築と維持を保証する、適切な財政の仕組みを構築しなければなりません。そのためには、適切な料金体系と補助金の組合せが必要です。特に貧困層が収入の大半を費やしたり、裕福な個人や機関が公正な負担分を支払わないということがないよう、政府や水道事業体は公平な、しっかりとした料金体系を確立する必要があります。

その上で、資金調達を考えると、ここでの大きな問題は、資金がどこにも無いということではありません。世界に潤沢に流れている資金が水と衛生セクターにどうして流入してこないのか、それを追求することが必要です。委員会は度重なる議論の結果、サービスの向上と資金調達スキームの拡大が車の両輪として働く必要があるとの結論に達しました。

そのためには、国際金融機関、OECDのDAC諸国を含む援助機関、地域機関、各国政府などが協力して、3つの行動を実施することが必要です。第1に、水サービスにおいて、ガバナンスと透明性をより向上させるための持続可能なプログラムを作成すること、第2に、地方の水事業体が新たな資金源を知るためのプログラムや地方の資金調達市場を発展させるプログラムを作ること、第3に、これらのプログラム作成のために、援助機関が水資金を投資することです。

 

諮問委員会はこの提案の実現に向け、国際金融機関、地域開発銀行、OECDや援助機関とのハイレベルな対話を開始します。そして、国家政府や地域政府機関と対話を重ね、地方の水道事業体、そしてもっとも重要なことですが、草の根レベルで水を待つ人々が、この提案の恩恵を直接享受できるように努めていきます。

こうした議論を続ける中で、私たちは今まで見落としていた大事な視点に気が付きました。それは、現在世界の水供給を担っている水事業体の90%以上が公営だということです。公共水事業が少しでも改善されれば、世界の水供給サービスに、大きな影響を与えるでしょう。諮問委員会は、この公共水事業体の改善のため、うまく行っている水事業体が、うまく行っていない事業体の改善を非営利で支援する、いわば助け合いの考え方に基づく新たな仕組みを提案します。私たちは、この水事業体同士の協力を体系立てて行う仕組みを、水事業体パートナーシップと呼んでいます。諮問委員会はこの新しい提案を実現するための体制整備を含むアクションプログラムを作り、その実現のために公共機関と国際社会に呼びかけ、共同で取り組みます。

衛生に関する国際目標を達成するための軌道に世界は乗っていません。最初の障害は、衛生教育の促進、家庭の衛生設備、汚水処理の、衛生の3つの局面それぞれに対して、より多くの配慮を払うために必要な意識と政治的な意志が欠落していることです。それと並行して、行動のための手段を作り、適用させていくためのプログラムも必要です。
このためには地球規模での支持が必要であり、地域の組織は資金提供やマーケティング、技術や体制の支援および指導を実施し、共同のキャンペーンに着手しなければなりません。

この政治的な意志を高めるために、「水の10年」を通じて4つのステップが必要になります。第1に、2008年を「国際衛生年」とすること。第2に、地方の水と衛生サービスで活動を行う人々にスポットライトをあてるために、「国連水大賞」を設け、その中に「国連衛生賞」を設けること。第3に、政策や体制が改善されているかを確認するために、2008年の国際衛生年に、国連地域事務局が各地域でハイレベルな会議を開催すること、最後に、国連水の10年の総括として、進捗状況を確認するために「国連衛生会議」を開催することです。

また、こうした一連の活動と同時に、地域レベルでもウォッシュやエコサンといった既存のイニシアチブやキャンペーンに協力し、保健の専門家や科学者を含めた、地域レベルでの衛生ワークショップを開催することも大切です。諮問委員会は国連、援助機関や研究機関、政府などと協力して、これらの活動が地球規模で広く認識され、実施されるよう働いていきます。

 

モニタリングは、水と衛生に関する国際目標の達成に向け、各国政府と国際社会が行う投資の実際の影響を理解するために不可欠です。このためには国際目標のお守り役である国連が、進捗状況の計測に必要な、信頼できるデータを提供することに責任を持たなければなりません。諮問委員会はその上で次の三つの行動が必要だと提案しました。まず、国連事務総長が国連機関と共同して、ジョイント・モニタリング・プログラムにふさわしい予算や人員の配分についての優先度を高めること、国連水関連機関調整委員会に国際、地域、国家、ローカルレベルといったさまざまなレベルのモニタリングや報告をまとめるためのはっきりした役割を与えること、各国政府がモニタリングの方法や項目の改善に向け自ら努力すること、そしてOECDが現在のモニタリングシステムを、特に資金調達などのいくつかの達成すべき目標を踏まえて向上させることです。諮問委員会は国連を始めとした関係機関がこれらの提言を実現できるよう、国際社会や財政機関に働きかけていきます。

各国政府による統合水資源管理と水効率化計画の作成は、国際的な合意目標の実現に向けて着実に進んでいることを認識した上で、さらにその進捗を早めていく必要があると考えます。このため、私たちは2008年に開催される国連持続可能な開発に関する委員会第16回会合において、統合水資源管理と水効率化計画の達成状況に関する報告を全ての国連加盟国が提出できるような行動を、国連と国際社会がとることを提案します。また、これらの計画を世界中で共有するために、国連がデータベースを構築すること、並びに統合水資源管理の原則が広く国際河川に適用され、国際河川にかかわる機関を国際社会が支援していくことを提案します。そのため諮問委員会は、国連事務総長や国連、そして必要ならば各国政府とも対話を行います。

水は生命です。しかし、ひとたび洪水、津波、土石流の形をとれば水は生命への脅威でもあります。そのことを私たちは最近のインド洋大津波、ハリケーン・カトリーナ、フィリピンでの土石流で目の当たりにしてきました。こうした度重なる悲劇を繰り返さないためには、国際社会が世界の認識や約束をつくる、水に関連した災害に対するわかりやすい一つの共通の目標を持つことが極めて大事だと考えています。具体的な目標は、まず専門家の議論を積み重ね、そして合意形成に移っていくのが良いでしょう。しかし大事なことは、関係者が国連機関などを通じて水災害に関する知識を共有しながら、共通の目標作りに向けて今行動を起こすことです。委員会はそうした方向への努力を支持し、国際社会がそうした共通の目標を設定されたならば、その実現に向けて関係者と協力して努力していきます。

 

最後に横断的な課題に関して一言申し上げたいと思います。水問題解決への利害関係者の参加は会議や文書では認められた言葉になりましたが、世界の多くの現場ではまだ十分に実践されているとは言えません。女性、貧しい人、先住民、若者、子供などはまだまだ現場では遠ざけられています。 また、水は社会や経済の様々な活動に関係しているので、他の鍵となる分野との連携協力が不可欠です。世界の社会、地域、国の水問題を解決するためには、教師や医療関係者、労働組合、商人、農民が一つのテーブルに集められなければなりません。水問題について、異なる視点や使命を持った様々な人たちと積極的に話し合うときが、今来ているのではないでしょうか。諮問委員会は、利害関係者が他の分野の人々と関わり、対話をすることが、毎日のありふれた光景になるよう、全世界に提唱します。

私たち諮問委員会は行動をおこします。そして皆さんが行動をおこすよう要請します。行動こそが世界を21世紀の水危機から救うのです。

ありがとうございました。