2006年3月16日 15:00〜15:30
「第3回から第4回世界水フォーラムへ
〜日本からメキシコへ〜 」ご挨拶

第3回世界水フォーラム運営委員会会長
日本水フォーラム会長
         橋本 龍太郎


はじめに
この度、第4回世界水フォーラムが開催されるにあたり、第3回世界水フォーラムを主催した者として、このような場を与えて頂き、誠にありがとうございました。第3回世界水フォーラム運営委員会会長として、ご報告をさせて頂くことを大変光栄に思います。

水はあらゆる生命の源です。しかし、世界の水は今、危機的状況にあります。そして、この危機は日増しに深刻化し、今、世界がどうしても行動を取らなければならないところまで来ています。世界では、未だに11億人が安全な水の供給を受けられないために健康や生活に支障をきたし、26億人が基本的な衛生にアクセスできないために人間の尊厳を冒されています。水質汚染も世界各地で深刻さを増しております。また、水関連災害は、広範囲に及び、かつ、人間と人間生活を襲う最も深刻な自然災害であります。
これらの水問題は、世界の多くで病気や飢え、教育や労働機会の喪失、ジェンダー問題、生態系の破壊など、世界の環境や経済社会的問題と深く関わっています。水問題の解決なしに、多くの国連ミレニアム開発目標の達成は極めて難しいと言えます。

第3回世界水フォーラム
こうした多様な地球上の水問題を解決するために、「オープンな会議」「参加する会議から、一人一人が創る会議へ」「議論から具体的な行動を実現する会議」という3つの理念を掲げ、今からちょうど3年前、水資源を共有している京都、滋賀、大阪の琵琶湖・淀川流域において第3回世界水フォーラムは開催されました。開催場所を流域としたのは、それぞれの地域が抱える水問題を解決するためには、流域が一体となって協力し、水資源管理に取り組むことが重要であると考えたからです。会期中に、米英軍等によるイラクへの軍事行動が開始されたにもかかわらず、183の国や地域から、2万4千人を越える参加者を得ることができました。ご参加頂き、熱心なご議論を頂きました参加者の方々にこの場をお借りし、改めてお礼申し上げます。

第3回フォーラムは、単に8日間の会期中だけではなく、今回もご列席のオレンジ公が議長を務められた第2回からバトンが渡されて以来、3年間の準備活動期間も含めたものと考えました。この間、第2回フォーラムのホスト国であるオランダと力を合わせ、様々な取り組みを展開してきました。“水の声”プロジェクトでは、2千人余りのメッセンジャーが、世界中から2万8千もの“水の声”を集めてくれました。インターネット上で議論を展開するバーチャル・フォーラムでは、会期前からすでに白熱した議論が展開されており、3年間のフォーラムというのは単に言葉だけではなく、実質のものとなりました。

第3回フォーラムでは、多くの約束や提言がなされました。こうした約束がどのように進捗したか、そして、この3年間で水を巡る世界がどのように発展してきたかをご報告させて頂きますが、本日から始まる第4回フォーラムでの議論の展開にお役に立てれば幸いです。

第3回世界水フォーラム以降の水を巡る世界の発展
国連・サミット

2003年12月の国連総会において、2005年から2015年を「生命のための水10年」とすることが決議されました。また、2004年に開催された「持続可能な開発委員会第12会期」や、「13会期」を通じて、水と衛生に関する議論が行われ、その成果が「決定文書」として取りまとめられました。国連としての活動の方向が定まったとも言えましょう。
2004年の3月には、国連のコフィ・アナン事務総長より「水と衛生に関する諮問委員会」の設立が発表され、私が議長を拝命致しました。私の経験が、世界の水問題の解決に少しでもお役に立つことができるのならば、とお引き受けしました。2004年の7月に第1回会合がニューヨークの国連本部で開催されて以来、このフォーラム直前にもここメキシコ・シティーで第5回会合が開催されました。このフォーラムにおいて、後ほど諮問委員会議長として、その成果報告をさせて頂く予定となっております。

第3回世界水フォーラム開催直後に行われた主要8カ国首脳会議、いわゆるエビアン・サミットでは、水に関するG8行動計画が合意されました。また、2005年に開催されたグレンイーグルズ・サミットにおいては、成果文書として、未曾有の被害をもたらしたインド洋津波への対応及び災害リスク削減に係わる将来行動が取りまとめられ、主要8カ国が力を合わせて水問題に取り組んでいく土俵が出来たと申せましょう。

ネットワーク
様々なネットワークも数多く生まれました。2002年4月に設立された、アフリカ諸国の水問題解決に向けた取り組みを連携して行うことを目指す「アフリカ水閣僚会議」は、第3回世界水フォーラム以降大きく動き出しました。 また、先進国間の連携を目指す組織として「ノーザン・ウォーターネットワーク」が誕生しました。様々なステークホルダーからなる、国全体をカバーする組織が緩やかに連携しようとするもので、オーストラリア、デンマーク、日本、オランダ、スエーデン、韓国、フランスといった国々がすでに参画しています。このネットワークに加わるために、新たな組織を誕生させた国もあり、次第に大きなネットワークが形成されつつあります。
第4回世界水フォーラムに向けての準備活動でも大きな動きが出ています。世界人口の6割を有し、なおかつ多様性に富んだアジア・太平洋地域がひとつにまとまり、水問題解決に取り組むネットワーク「アジア・太平洋水フォーラム」構想が、地域における準備活動を通して提案され、今大きく羽ばたこうとしているのは大変うれしいことです。

流域ネットワーク
また、流域を単位としたネットワークの活動も活発に行われています。「流域機構国際ネットワーク」や、「アジア河川流域機関ネットワーク」の活動です。第3回フォーラムを契機に開催地に誕生した「琵琶湖淀川流域圏再生推進協議会」のような、流域を単位とする新しい取り組みも世界各地で動きだしました。

水問題の現状評価・モニタリング
2000年9月のミレニアム・サミットで定められた「国連ミレニアム開発目標」は、2015年までに達成すべき8つのゴールを掲げています。その中の「2015年までに、安全な飲料水及び衛生設備を継続的に利用できない人々の割合を半減する」というターゲットについて、達成状況をモニタリングする中間報告書が、ジョイント・モニタリング・プログラムによって取りまとめられました。この報告書は、目標を達成するには、解決しなければならない課題がまだまだ山積している現実を世界に示すこととなりました。
第3回フォーラムにおいて、ユネスコは「世界水発展報告書」を初めて公表しました。その後、前回から3年を経た世界の水の状況を再評価した第2巻目が、今回のフォーラムにおいて、「世界水の日」に正式に発表されます。 2002年、ヨハネスブルグで取り交わされた国際的な約束、「2005年までに各国は統合水資源管理及び水効率化計画を策定する」に、対する現状調査は、世界水パートナーシップをはじめ、複数の機関によって行われておりますが、必ずしも計画策定が順調に進んでいない現状は大変憂慮されます。 更に、世界水会議は効果的かつ効率的なモニタリングを行うための枠組みとして、「水モニタリング・アライアンス」を立ち上げ、水に関するデータ収集、分析などを行っている世界の機関の情報集約に努めており、今後、より効率的なデータ収集に向けて進むものと期待されます。

具体的な活動例
 今回、私たちは、第3回フォーラム時になされた約束が、どのように進捗しているかについて調査を行いました。会議後のフォローアップ調査を行うことは、会議を開催した者の責務と考えたからです。
第3回フォーラムの分科会などでなされた約束は、500以上にのぼります。分科会主催者とテーマ・コーディネーター400人を対象に、約束の進捗状況をお尋ねするアンケートを送りました。回収できた回答はたった14件でしたが、それでも大きな成果を上げている事例が見られたことはうれしいことでした。 「スラムや農村に安全な水を供給する」という約束については、「国連などから資金援助を得て、90以上の村に水供給を行えるようになった」という進捗状況がインドから報告されました。水供給のための井戸をどこに掘るか、など利害が反する問題について、地元の女性や農民から意見を聴くなど、NGOの多大なる努力によってこの約束は実現されました。その一方で、「政府に水問題解決に向けた具体的な政策をつくるように促す」という約束に関しては、「政府は常に経済や社会発展に関する政策を優先し、水に関する政策は後回しにするために進捗していない」との悲しい回答が寄せられています。 回収回答数が、非常に少なかったことは大変残念でした。約束は果たされるためにあります。なされた約束がどのような行動に結びつき、そして、どのような結果に繋がったかを知ることは、新しい行動を生み出していくために不可欠です。そのためにも、追跡調査は重要であり、今後ともこの面での活動を強化していく必要があります。

また、水に係わる草の根的な活動の発展状況も調査しました。第3回フォーラム時に行った「水行動コンテスト」に応募して下さった870団体に対し、この3年間にどれほど活動が広がり、どのように地域に貢献しているかをお尋ねしました。
集まった回答は67件でした。その中のひとつに、ガーナで水に関する市民の意識を向上させ水環境をよくするために、果実の実る木々の植林を行い、土壌浸食を防ぐ活動を行っている団体があります。これまでガーナには水を専門的に扱う省庁がありませんでしたが、彼らの働きかけにより、ガーナ政府の水問題に対する関心も高まり、ついには独立した水省がつくられることになった、との心強い報告が寄せられました。
その他の多くの団体は、活動を発展させていってはいるものの、共通して資金面での問題を抱えており、資金を確保する仕組みづくりが課題となっています。第4回世界水フォーラムでは、具体的な活動「ローカルアクション」が大変重要視されています。これまでに、登録されているローカルアクションは1,600件もあると聞いております。こうしたローカルアクションを継続してモニタリング調査することは、今後このような活動を発展させるために非常に重要であると考えます。

ユースと子どもの活動
 次世代の担い手である若者や子どもの活動が、大変活発に行われていることは大変心強いことです。第2回フォーラムで生まれた「ユース世界水フォーラム」は、第3回フォーラムで大きく成長し、様々な水問題解決に向けた取り組みを地域レベルで行っています。第4回世界水フォーラムでも、若者達が自ら企画した分科会で彼らの活動が報告されます。大いに期待したいものです。
 子供達の活動も活発化しています。第3回世界水フォーラムで初めて開催された「世界子ども水フォーラム」に私も出席しました。日本とシエラレオネやチャドの子どもにとって「安全な水」という言葉の意味することすら全く異なっていました。大きな会議で子ども達が自ら発言し、議論することで「将来を担う子どもは重要なステークホルダー」との認識が世界に広まりました。子ども達が自分達の目線で世界を実感できる子どもフォーラムは、この第4回フォーラムでも、更に発展した形で開催されると聞いており、どんな発展が見られるか、大いに楽しみにしております。

終わりに
水に関する課題はまだまだ山積しており、こうしている間にも水に起因する病気で、子どもたちが苦しみ、死んでいっています。今日、生命を維持するための水を手に入れることさえ困難な人々がいる中で、世界人口は65億人を突破し、ひとすくいの水を奪い合わずには生きていけない日がすぐそこまできていると言っても過言ではないかも知れません。気候変動や異常気象によって、世界のどの地域もが危険にさらされています。私たちは、今、正に岐路に立たされています。水問題解決に向けて、世界のあらゆる叡智を結集し、経験を共有し、一刻も早く具体的な行動を取らなくてはならない時にきているのです。

いよいよ今日から始まった第4回世界水フォーラムの7日間にわたる議論や情報・経験の共有によって、実り多い成果が出されることを祈念し、私のご報告とさせて頂きます。
ありがとうございました。