|
|||
2006年2月4日(土)インドにて |
|||
序文) さて、わが国古来の仏教はここインドより学び、アジア初のノーベル文学賞を受賞した詩人「タゴール」とわが国を代表する近代日本の思想家、岡倉天心との友好は日本・インドのみならず、アジア全体の文化の発展に大きく寄与しました。前回のスピーチでもお話させていただきましたが、私が慶応大学在学中の1957年10月に訪日されたネルー首相は我が母校の図書館二階のバルコニーから演説されました。その中でネルー首相は「ナショナリズムとの調和」を必死に訴えた先見の明のある内容であり、学生時代の我々に少なからず影響を与えた人物でもございました。 その後、公務を務める中で、インドには幾度となく訪問をさせて頂き、現首相であるマモハン・シン首相とも大蔵大臣当時からの古き良き友人であります。このインドとの係わりが増えるにつれ、人類の発展に必要なものはなんなのか?を常に考えさせられるようになりました。その意味でも本日「水」という大きな枠組みの中でお話させていただく事は大変名誉な事であると考えております。水問題を解決する事は、世界で最も喫緊かつ重大な課題である貧困問題解決へ直接結びつくものと私は確信しております。 |
|||
基本的な知識・現状) |
|||
水に対する敬意) インドのベンガル湾沖等で発生するサイクロンは、大雨をもたらし、しばし農業へ大きな打撃を与える一方で、下流部では肥えた沖積土をつくりだし、インドの穀倉地帯となっているとも聞いております。たとえ状況は違えども、水が恵みを運ぶ事はどの国でも共通の事情であります。例えば、わが国では戦後国土の半分が焼け野原でした。先人たちは住宅の建築や燃料の為に、こぞって雑木林を伐採し、枕木や電信柱などへの用途多様な杉や檜等の針葉樹の植林を全国各地で始めました。その結果が花粉症と言うものをもたらしているのですが、広葉樹林は針葉樹林と違い根本で水を蓄え、その上に落ちる葉が一つは肥やしとなりまた一つは水を蓄える役目を果たしているのです。そして、栄養豊かな土を通り抜けた水は川へと流れ出し川とそれに繋がる海を豊かにしていったのです。ご存知の方も居られるかも知れませんが、現在わが国では漁師が植林をする時代になっているのです。海の栄養分が増えればそれだけ生物が戻ってくると彼らは考えたのです。つまり彼らは川そして海の栄養分を昔のように取り戻すため、上流に広葉樹を自ら植林しだしたのです。これは人間の英知といっても過言ではありません。これらの行動により地域の融和を生み出し、上流と下流が一体となる事によって今後の「水の世紀」への希望は存続していけると私は確信を持ちました。 |
|||
水による被害) |
|||
日本の現状) しかし現在の日本は水資源管理及びそれに伴うインフラ整備が整っている事が水の需要と供給のバランスを何とか保っているのです。施設だけをつくっても、インフラ整備、システム、使用者側の心得等、ある程度のルール作りが出来なければ、上手く保つ事はできません。もちろん、異常気象などによる渇水の問題も近年は深刻になってきてはおりますが、しかしこのような整備が出来ていなければ、それこそ、大惨事を招きかねない要因を持っているのです。 また、我々は地下水保全対策にも力を入れております。地下水の過剰摂取は地盤沈下や塩水化といった地下水障害をおこしました。これは一旦生じると回復が困難であったり、回復に極めて長期間を要します。高度成長期に我々は、自然界の浄化力の限界を見誤ったために幾度かの極めて困難な壁に何度もぶつかり、挑戦しそれを乗り越えてまいりました。我々は乗り越える能力を持った、そして挑戦をする意欲を持った国でありました。私自身も今日までそうした思いを忘れる事なくもち続けながら仕事をしてまいりました。私は他国に我々同様の努力を押し付けるつもりはございません。むしろ我々が失敗をした、そしてその失敗を解決してきたプロセスとそこから導き出されたデータを提供することによって、各国が我々と同じ苦しみを味わわないでいただきたい。そして我々の経験を活かし一歩先を踏み出したところからスタートしていただきたい。その思いで今まで活動をしてまいりました。 水問題はそれぞれの国や地域で異なるものです。現在それぞれの国で行われている水資源管理は、その国の抱える水問題や社会的、経済的発展を反映しています。そのため、「より良い水資源管理」と一言で言っても、それは万国共通のものではあり得ません。重要なのは、各国それぞれが自らの水資源管理を見なおし、解決に向けて優先的に取り組むべき問題を確認、自覚し、共通認識を持つことです。そして全てのステークホルダーを考慮したよりよい水資源管理とは何かということを問い続けながら、その方向性を見極めることが肝心です。ここで忘れてはならないのは、それぞれの国が自国の都合だけで水資源管理を考えるのでは上手くいかないということです。世界には多くの国が国境を越えて水源を共有していることから、越境水についても充分考慮する必要があります。 |
|||
結び) 最後に、この度の、タタ・エネルギー研究所主催「デリー持続可能な開発サミット」におきまして、ご尽力いただきましたエネルギー資源研究所のパチョーリ事務局長に対しましてこの場をお借りして一言御礼を申し上げ、私の話を終らせていただきます。 ご清聴有難うございました。 |
|||