「UNEP特別賞受賞にあたり」

(2004年9月27日中華人民共和国 釣魚台国賓館にて)
 この度、この様な名誉あるUNEP特別賞をいただき、大変光栄に思っております。またそれと同時に今まで私自身が携わってきた方向が間違いではなかったとの評価をいただき安堵しております。
 
 わが日本はかつて我々自身が自然界の浄化力の限界を見誤ったために幾度かの極めて困難な壁に何度もぶつかり、挑戦しそれを乗り越えてまいりました。我々は乗り越える能力を持った、そして挑戦をする意欲を持った国でありました。私自身も今日までそうした思いを忘れる事なくもち続けながら仕事をしてまいりました。私は他国に我々同様の努力を押し付けるつもりはございません。むしろ我々が失敗をした、そしてその失敗を解決してきたプロセスとそこから導き出されたデータを提供することによって、各国が我々と同じ苦しみを味わわないでいただきたい。そして我々の経験を活かし一歩先を踏み出したところからスタートしていただきたい。その思いで今まで活動をしてまいりました。
トッファーUNEP事務局長より特別賞授与
受賞後挨拶をする橋本
 その成功例の一つとしてご紹介させていただきたいものがございます。それは来年わが国・愛知県で開催されます「愛・地球博」通称愛知万博です。これは「自然の叡智」をメインテーマとしており、会場の開発を必要最小限に抑え、今ある自然との共存を目指してまいりました。またこの会場自体が再生林により緑を復活させた場所であり、第二次世界大戦後焼け野原になった現在の会場に未来を見据え必死に自然を復活させようと植林をした当時の行政には頭が下がります。私が通産大臣時代にこの場所を万博会場として選んだわけですが、植物一つをとってみても実に計算高く植えられておりました。落葉樹を植える事によりその場所の保水力を高め、地面に落ちた葉が腐葉土となりその土地を豊かにする。また木の実のつく木々を植える事により動物が集まり今では立派に再生され絶滅危惧種のオオタカや天然記念物でもある岐阜蝶等、様々な動植物が共存をしているまさに生物多様性保全地区であり日本の再出発の成功事例の象徴であります。このような環境をテーマとした様々な取り組みは今後世界に対して環境立国日本を最大限アピールすることになるでしょう。

  さて、ここ中国に限定してお話をさせていただければ、近年、わが国と中国との間での環境に関する協力も盛んになってまいりました。本年4月、中国を訪れた際に出席しご挨拶をさせていただきました「中国水フォーラム」では日本の若者たちが中国の若者たちと一緒になって「水に関する分科会」を開催しました。地球の将来を担う世代の若者たちが、命の源である水を自分たちの為に、そして次世代へと間違いなく引き継いでいく為の具体的な行動を始めていることも大きな喜びの一つであります。
  今後の取り組みと致しましては日中間に「水の研究会」を立ち上げ中国の水問題解決に向け、日中双方の叡智を集結させたハード・ソフト両面での水環境保全へ向けて私は「日本水フォーラム」と協力して取り組み相互交流の促進を図っていこうと考えております。
 最後に、水問題への早急な取り組みの必要性が説かれるのは、水が人間の生活あるいは健康や福祉にとって不可欠である事、すなわち人間の尊厳に関わる事であり、水問題で失敗すれば国造りどころではなくなると言っても過言ではない事であります。持続的可能な開発における主要な要素としての水の重要性を世界の人々がしっかりと認識しそして自分が今何をすべきか、何が出来るのかを一人一人自覚する事が大切なのです。私は戦後の環境問題を克服した経験を世界で共有しつつ、途上国におけるオーナーシップとガバナンスの確立に向けて今後もこの分野での協力を行っていく事が重要であると考えております。
移動中
会場にて
式典にて参加した子どもから祝福を受ける参加者メンバー