日本・アラブ対話フォーラム第1回会合開催
−9月4日〜5日東京都内にて−
会議風景 日本側メンバー
共同記者会見
(左から ハーリド・アル・ゴザイビ商業工業大臣(サウジアラビア)・
橋本・イスマイ―ル・セラゲッディーン・アレキサンドリア図書館長(エジプト)

日本・アラブ対話フォーラム概要

1.「日本・アラブ対話フォーラム」は、中東情勢激動の折、我が国とアラブ諸国の対話を深め、今後の協力関係のあり方を模索する意図で設立されたもの{座長:橋本龍太郎(日本)、セラゲッディーン・アレキサンドリア図書館長(エジプト)、ゴサイビ経済企画大臣(サウジ・座長代理)(メンバーリスト別添)}。本フォーラム第1回会合は 、9月4日から5日にかけて開催された。(国際交流基金主催、(財)日本国際問題研究 所企画運営協力)

2. 今次会合においては「戦後イラクと国際社会の役割」及び「中東における経済社会開発」について意見交換を行った。会は我々の間の理解を深める上で大変有意義だったのみならず、今後の日本とアラブ世界との関係を発展させる上で希望を抱かせるものであった。

3. このフォーラムについては、今後とも相談して開催していくことについて合意が得られ、次回会合についてはエジプトより、アレキサンドリアで開催したいとの申し出があり、会議はこれを歓迎した。時期については今後外交チャネルで詰めていくことになる予定。

4. この会合は忌憚のない意見交換を行う目的で設置され、何らかの結論を出したり、意見の一致を予め目的とするものではなく、正式な議事録を作成しない。今後の内容は各国メンバーがそれぞれの本国の指導者に報告する予定。

5. 会合の以下の概要については、会合直後の記者会見において、日本側座長を務める橋本元総理から以下の報告が行われた。


第1セッション「戦後イラクと国際社会の役割」


1.イラク情勢の行方が中東地域の安定に大きな影響を及ぼすとの観点から、イラクの安定化のために、日本とアラブ諸国との間でいかなる協力が可能かにつき議論した。

2.人道支援については、三角協力などにより、日本とアラブ諸国との一層の協力の可能性が示唆された。既に日本とエジプトとの間ではイラクに対して共同医療援助プロジェクトが実施されつつあるが、このような形の協力を更に発展させていくことが望まれる、また、文化財保護が重要との意見が表明された。

3.アラブ諸国は、イラクの人々に対する人道支援は行っているが、更に積極的に取り組むためには、安全が確保されること、イラク人自身が新政府樹立のため参画し権限を与えられることが必要との意見が表明された。また、中東における正義がより広範な形で問われるとの意見が表明された。新たな国連決議は国際社会よりの支援を得るためには必要だが、それだけでは十分ではなく、イラク人自身が政治プロセスに参画し、かつ政
治プロセスの明確化が望ましいとの意見が表明されました。また関連して、中東和平とりわけパレスチナ問題の公正な解決に向けた努力が重要であるとの意見があった。

4.テロについては、世界の他の地域と同様にテロは許されざるものであるが、同時に、テロ発生の背景にある地域の政治的・経済的問題に対する取組みが重要であるとの意見が表明された。


第2セッション「中東における経済社会開発」


1.中東地域の平和と安定にとって、中東地域の経済・社会開発を実現することが不可欠であることにつき意見の一致を見た。

2.中東地域は現在、人口増加に伴う雇用機会の増加の必要性、グローバリゼーションに伴う競争力強化の必要性というチャレンジに直面しているが、同時に、こうしたチャレンジに対する取り組みとして中東諸国により真剣な改革努力が行われていること、そしてこうした改革努力を十分に認識することが重要であるとの認識が示された。

3.こうした問題解決の鍵の一つとして、技術訓練を含む人造りの重要性について指摘が行われた。

4.日本の技術開発、特に第二次大戦後の日本の経済発展の経験をも踏まえつつ、お互いにとってメリットになる形で長期的視野に立ったパートナーシップ関係構築に対する期待の表明があった。日本とアラブ諸国の関係を幅広いものとするため、経済交流の活発化を含め、日本とアラブ諸国がいかなる協力を行い得るかにつきいくつかの具体的アイデアにつき討議した。

5.またイラクの経済再建のためには、政府の協力のみならず、日本とアラブ諸国の間で民間の連携が発展する可能性が留意された。

6.サウジ、エジプト側の出席者からは、現下のアラブ地域における関税統一化の動き、あるいはEUとの貿易統合の動きについて説明しつつ、アラブ諸国と日本のパートナーシップを強化していくためにも両者間の自由貿易協定の可能性を追求してはどうかとの示唆があった。

7.日本と中東は経済的補完関係があり、今後とも相互依存を強めていかなければならない点は疑問の余地はない。そのような観点から、日本と中東の間でどのような経済的フレームワークがあり得るのかにつき考えていくことは意味があるとの結論に達した。

8.本件会合では出席者から想像以上に多くの関心事項が表明された。とくに経済社会開発についてはこの全体会合だけでは議論しつくせないほど多くのテーマがある。そのためこの全体会合以外に何人かの有志が随時機動的に集まり、議論をより深めていくこととなった。今後、こうした少人数の集まりをどのような形で開いていくかは外交ルートで調整していく予定。


「対話フォーラム」第一回会合日程


 9月4日(木) 「フォーラム」第1日目
      (テーマ:「戦後イラクと国際社会の役割」)
      参加者の小泉総理表敬
      外務省主催レセプション
    5日(金) 「フォーラム」第2日目
      (テーマ:「中東における経済社会開発」
          「次回会合と今後の取り進め方」)
      共同記者会見


「対話フォーラム」メンバー


エジプト
(1)イスマイール・セラゲッディーン・アレキサンドリア図書館長(座長)
(2)ハーテム・エル・カルナシャウィ経済問題担当首相特別顧問
(3)ファルーク・イスマイール元カイロ大学学長(日本帰国留学生会名誉会長、シューラ評議会議員、カイロ大学工学部名誉教授(電気工学))
(4)アブドゥルファッターハ・シャバーナ元駐日大使(80〜84年駐在)

サウジアラビア
(1)ハーリド・ビン・ムハンマド・アル=ゴサイビ経済企画大臣(座長代理)
(2)ハーシム・ビン・アブドッラー・ヤマニ商業工業大臣

日本
(1)橋本 龍太郎 元総理(座長)
(2)宮原 賢次   日本貿易会会長
(3)岡本 行夫   総理大臣補佐官
(4)須藤 隆也   日本国際問題研究所軍縮・不拡散促進センター所長
(5)山内 昌之   東京大学教授


質疑応答

(1) シンガポール・ビジネス・タイムズ

(サウジ及びエジプト代表に対し)
イラクで安定を実現するため、そして意味のある経済協力ができるようになるまでどのくらいの時間がかかると考えるか。また、中東諸国と日本、またEUとの自由貿易協定については言があったが、米国との間での同協定はどうか。

(ゴサイビ大臣)
イラクの現状の不安定さは皆が認識するところであり、今後いつこれがいつ正常化するか予想するのは困難である。しかしながら近い将来状況が改善することにつき希望をもっている。

(セラゲッディーン館長)
いつ安定するかわからない。ただ、透明性を高め、イラクの人々の参加が確保され、力づけられるこいうことになればイラクの安定化と繁栄のプロセスを加速化することができると考えている。また、米国との貿易上の協力についても会議の中で言及した。

(2) 読売新聞

(サウジ及びエジプト代表に対し)
米国がイラクの安定化のための多国籍軍を容認する決議案を出すとの報道がある。エジプト、サウジのイラクとの関係は歴史的にも複雑なものがあり、イラク国民はエジプト、サウジからの軍隊を受け入れることは難しいと考えるが、この件について会議ではどのような議論が行なわれ、また仮に決議が通った場合両国はいかに対応するのか。

(セラゲッディーン館長)
本会議はセカンド・トラックであり、出席者は国を代表するものでなく、個人の資格で参加している。多国籍軍派遣については現在安保理で審議中のものと考えるが、これは最終的には外交官が決めることである。

(ゴサイビ大臣)
我々は当然のことながらイラクの状況を危惧している。国際社会の懸念を共有する。何らかの方法をもってイラクの情勢をできるだけ早く正常化したいと考えている。しかし、多国籍軍の派遣については我々の権限を越えるものであり、会議の協議の中で議論は及んでいない。

(3)時事通信

イラク復興に向けたアラブ諸国と日本との三角協力について会議の中で具体的にどういうアイデアが挙げられたのか。

(橋本龍太郎)
先程例示したように、日本とエジプトが医療の分野で共同作業を進めていることは紹介した。今、まだ落ち着きを取り戻していないイラクであるので、これから先どのような協力が必要になるのかわからない。しかし、この三国が共に手を携えて取り組む、あるいは二国間で取り組む、いろいろなことがあり得るということを我々は議論した。それは水の問題をはじめ、すべての問題について言えることである。

(4)東京特派員

正義ということに関して、日本側は今かつてよりもアラブの視点について理解は深まったと考えるか。イスラエルとアラブ間の紛争について理解は深まったと考えるか。

(橋本龍太郎)
この質問はときどき受ける。この前はカイロで、その次はアブダビで受けた。そしてその時にはパレスチナに対する日本の支援そのものが現地で説明してもなかなか信用してもらえなかった。ちょうど一昨年の9月11日の事件を受けて10月半ばくらいにエジプト、サウジを訪問した時、その時点で93年以降6億1千万ドル以上の対パレスチナ支援を実施していたと思うが、なかなか信用してもらえない中で、アラブ連盟を訪問した際、アラファト議長がちょうど見えるというので、久しぶりにお会いした。そしてあのヒゲ面で頬擦りされて顔の皮がむけそうであった。その姿を見てはじめて現地の記者の方々が自分の言うことを信用するようになった。日本はパレスチナに対する支援を続けてきた。また、イスラエルにもものの言える立場を今日も保持している。おそらく小泉総理に質問しても同じ答えが返ってくるものと思う。

(5)ペトラ通信

次のアレキサンドリアでの会合は、どのレベルか、つまり公式のものか、また他の国も招待されるのか。

(橋本龍太郎)
次回の会合に限定するのであれば、参加国の拡大は考えていない。我々は三者でしっかり話し合っていくという結論に達した。このフォーラムに政府の肩書きを持って参加している人はおらず、みんなそれぞれの資格である、ただ、それぞれの国がバックアップしてくれているという意味では公の立場なのかもしれない。今回集まったメンバーは全員アレキサンドリアで顔を合わせることになると思う。ただ小泉総理がその時期に衆議院選挙をやると言えば自分は出張どころではなくお詫びをしなければならないが、最初から第2回目以降どこで行なわれようと出られるときは必ず出ると約束し参加を予約してきた。

(6)テレビ朝日

(エジプト及びサウジ代表に対し)
米国が中心となって行なっている暫定統治に対する評価についての議論はあったか、また日本に期待される役割についてご意見をお聞きしたい。

(ゴサイビ大臣)
現在人道的支援がイラクに向けられており、いくつかの箇所で移動式の病院がサウジによって設けられている。また、薬、様々な医療物資も送り込んでいる。UAE等の他の湾岸諸国は医療物資を空輸している。このようにサウジ及び湾岸諸国からの援助物資はあまりにもひどい状況にある医療、保健分野に特化している。この先我々は状況にもっと安定性が高まることを期待しており、そうなればもっと多くの援助物資が届けられるであろう。この域内の国々は是が非でもイラク人の困難に対応したいと考えている。

(セラゲッディーン館長)
補足するとすれば、我々はこうした立場をとるのみならず、エジプトと日本は橋本元総理がおっしゃったように人道・医療支援をおこなっている。何年にもわたって制裁がかされイラク国民は多くの困難を経験した。これを何とか緩和するため行動が必要であり、まず人道レベルで医療、薬、食糧、必需物資が特に11月以降必要となってくるであろう。また水、電力、道路等の建設関係も出てくるであろう。このようなことが治安を確保するために必要となってくるであろう。しかし、まずは人道援助が先にくるべきであり、橋本元総理、ゴセイビ大臣がおっしゃったような点に我々は特化している。また、我々はイラク国民の生活を何とか改善してあげたいと考えている。その他何ができるかは今後考えたい。

(7)シンガポール・ビジネス・タイムズ

日本と中東との経済関係はどのように将来発展してだろうか、いかなるパートナーシップあるいは投資が行なわれると考えるか。また、日本からの中東へのODAは将来拡大していくのか、あるいは民間セクターの活動が活発化すると考えるか。

(橋本龍太郎)
ODAが拡大するか否かについては外務省の会見で聞いて欲しい。自分にはそこまで答える権限はない。この二日間の議論で日本とシンガポールで結ばれた自由貿易協定をアラブの両国のみなさんがよく研究をして下さっていたことに驚いた。その上で日本とアラブ諸国とのパートナーシップを強化するためにも自由貿易協定の可能性を追求してはどうかとの提案が生まれたと考える。その中には現在アラブ地域で行なわれている関税統一化の動きあるいはEUとの貿易統合の動きについても説明を頂いた。その上で、日本と中東との経済関係は補完関係があるわけであり、今後とも相互依存関係を強化していかなければならないことは全く疑問がない。そうした観点から日本と中東との間でどんな経済的なフレームワークがありうるのか考えていくことは意味があると考える。そして自由貿易協定という意見が出たことにつき自分は日本政府にこれを正確に伝達することを約束した。

(8)共同通信

このフォーラムの第2、第3回の会合を続けていくとして、年次開催のような毎年開催していくことを考えているのか、または数年に一度という方針でいかれるのか。

(橋本龍太郎)
私の方から両国に対しては、予想以上に本当にいい意見がいっぱい出た実のある会合であったのでこれからもこの会合を続けることを希望しており、このモメンタムを失わないよう次回会合は可能な限り早く開催したいという希望を伝え、これに対し両国から認めていただいた上で、次回会合をアレキサンドリアでエジプトにホストしていただくことになったのである。