第3回世界水フォーラム開会式 開会挨拶
第3回世界水フォーラム運営委員会会長
元内閣総理大臣   橋本 龍太郎

 皆さん、おはようございます。
 本日ここに皇太子殿下、同妃殿下、そして、第一回フォーラムの開催国を代表してモロッコ王国のムーライラシッド王子、第二回フォーラムの議長を務められたオランダ王国皇太子殿下オレンジ・ウイリアム・アレキサンダー公、更には、パラオ共和国トミー・レメンゲサウ大統領にご臨席を賜り、第三回世界水フォーラム開会式をこのように盛大に開催できますことはまことに光栄であり、この上ない喜びでございます。

 会議の開催に当たり、第二回フォーラム以降、今日まで、第三回世界水フォーラムの成功のためにご尽力を頂いた全ての皆様方に心より御礼を申し上げたいと思います。とりわけ「水の声プロジェクト」のメッセンジャー及び水の声パートナー機関として世界から水の声を集めていただいた皆様、二年間にわたり幅広いテーマについて貴重な議論を展開してこられたバーチャル・フォーラムの主催者とその議論に熱心に参加された皆様、そして何よりこのフォーラムの根幹をなす三百三十七の分科会を主催される皆様、更には閣僚級国際会議を主催する日本政府及び出席される各国政府代表の皆様、内外の参加者の皆様を確実に楽しませてくれるであろう「水のえん」を主催される琵琶湖・淀川流域連携実行委員会、滋賀県委員会、推進京都実行委員会、大阪実行委員会、「水のエキスポ」実行委員会及び関連団体の皆様、そして最後になりましたが変わらぬご尽力をいただいた関係自治体、市民、NGOの皆様に加えて、このフォーラム開催に向けて御寄付をいただいた団体、個人の方々に深甚なる感謝を申し上げます。

 また、本日の開会式に御出席いただきました皆様、世界百八十カ国・地域及び国内の各地から日頃の水活動の成果を持ってこの滋賀、京都、大阪の琵琶湖・淀川流域にご参集いただきました皆様に対し、心から歓迎を申し上げます。

 ついに第三回世界水フォーラムが八日間の幕を開けます。マラケシュで生まれ、ハーグで大きく清らかに育てられた水が、ボンを経てヨハネスブルグで二十一世紀、人類が解決すべき最も大きな目標と見定められるまでに力強く育てられ、今我々の眼前に、この琵琶湖・淀川流域に、滔滔たる流れとなって戻ってきました。皆様と一緒にこの豊かな水の流れを歓迎したいと思います。

 ヨハネスブルグサミットでは、二千十五年までに安全な飲み水を入手できない人々及び基本的衛生施設を利用できない人々の割合を半減することに合意しました。このように水分野については、新たな数値目標が盛り込まれたわけで、水以外の分野の人々からも極めて高い評価が得られたところであります。
 しかし今後は、これをどう実現していくのかが問われます。その実現に向けて、具体的にフォローアップする場こそがこの第三回世界水フォーラムであります。

 このため第三回世界水フォーラムが、単に幻想を振りまくだけの会議、会議のための会議に終わったということにならないよう、そして、ヨハネスブルグサミットのフォローアップ会合にふさわしい『行動を実現する会議』となるよう、この三年間、準備を進めてまいりました。

 準備に当たり、私達は、水が地球上に生活する六十億の人々の一人一人に関る問題であるとの認識に立ち、基本となる三つの理念をたてました。開かれたフォーラム、参加する会議から一人一人が創る会議、そして、議論から具体的な行動を実現する会議、です。更に、この理念を実現するための手段として、"ヴァーチャル・フォーラム"や"水の声プロジェクト"を立ち上げ、その活動を支援してきました。

 ヴァーチャル・フォーラムは、いわばウェブサイト上に設けられた第三回世界水フォーラムとも言えるもので、現在までに百六十六の分科会が開設され、登録数も五千六百人を超えて今だに増え続けているなど、現在も熱心に議論が続けられています。
 しかし残念ながらインターネットはまだ世界を完全には覆ってはいません。インターネットが使えない地域こそ水問題に苦しんでいる地域でもあります。そんな地域の水の声をフォーラムに反映させようということで始まったのが「水の声プロジェクト」で、二千人を超える水の声
ボランティア、百六十を超える水の声パートナー機関の熱心な支援、協力を得て、二万七千件を超える水の声を集めるまでになりました。インターネットを使えない地域という枠を越えて、全世界の人達の水への思いを収録するデータベースとして成長してまいりました。世界から寄せられた水の声がこの第三回世界水フォーラムを支えてくれているのです。
 又、この三年間、私たち準備に当ってきたメンバーが手分けして、私自身も先頭に立って世界中を駆け巡りました。日本はもとより、世界中で開催される水に関する会議に積極的に参加し、水ネットワークの形成に努めて参りました。そのこともあって、数多くの分科会の開催要望が寄せられ、そのご要望にすべてお応えすることを目標に作業を進めてきた結果、最終的には三百三十七にも及ぶ分科会の開催を予定するまでに至りました。これほどの分科会開催数に達したことは、私たちにとっても大きな驚きであり、また大変うれしいことであります。そしてそれが可能になったのは、まさに琵琶湖・淀川流域の三都市でフォーラムを開催することによるものであり、流域を単位と考えることの成果が早速出たものと喜んでおります。

 この手法を世界水パートナーシップのカトレイ・カールソン総裁は、これまでの国際会議にない「グランドアップのアプローチ」と評していただきましたが、この三年間の準備過程そのものが第三回世界水フォーラムなのだとも考えております。

 分科会の開催に際しては、議論が噛み合い活性化するように、またフォーラム参加者により一層わかりやすく御理解いただくために、分科会をテーマ別に分類することとし、三十三の主要テーマと五つの地域の日を選定しました。主要テーマと地域の日は、その主要テーマに属する分科会主催者の中から選ばれたコーディネーターを調整役にして、オープニング、分科会、クロージングの三部構成で運営されます。

 このうちオープニングとクロージングには、その主要テーマに属する全ての分科会が一緒に集うこととなり、立場を異にする人たちが一緒に議論することが期待されています。テーマによっては激烈な議論が交わされることになりそうで、そんな議論の中から新しい行動が生まれてくることを切に願っております。

 今回のフォーラムには、従来からのテーマに加え、新しい分野が数多く加わりました。「水と貧困」、「水と気候変動」、「水と情報」、「水施設への資金調達」、「水と交通」、「水と文化」、「水と命、医療」、「洪水」などの新しい切り口や課題、「世界子供水フォーラム」、「水援助パートナーパネル」、「ユニオンパネル」などの新しいグループが加わってくれました。
 勿論、従来からのテーマ、例えば「ダムと持続可能な発展」、「官民の連携」などは、水問題の根幹をなす課題だと受け止めております。どんな議論が展開され、どんな新しい行動が出てくるのか、世界中が注目している話題でもあります。

 三十三の主要テーマと五つの地域の日に分類された三百三十七の分科会が、単にそれぞれの成果を発表するだけではなく、ヨハネスブルグサミットのフォローアップにふさわしい行動を導き出せるよう、新たな挑戦を行うことが求められています。
 その意味では、例えばヨハネスブルグサミットで発表された「日米きれいな水パートナーシップ」のように、途上国への協力を実施するために先進国が連携することは、水問題解決に向けた一つの重要な鍵になると思われます。また、このような協力を考えるとき、ともすれば資金面ばかりが議題になり勝ちですが、幅広い知見、技術、情報、とりわけ途上国の水管理能力、ガバナンスを向上させるための知見の重要さを強調したいと思います。
 このような知見が、先進国の間ですら必ずしも整備、共有化されていない現状を考えると、懸念なしとはしません。先のヨハネスブルグサッミットでは、第三回世界水フォーラム事務局は、世界水会議、世界水パートナーシップと共同して、このような知見を共有するためのネットワーキングパートナーシップを提唱したところであります。このような施策がこのフォーラムをきっかけとして大きく進展することを願っております。

 ここに一つお願いがございます。私達は第3回世界水フォーラムの開催場所として、一つの都市ではなく、琵琶湖・淀川水系を選びました。このこと自体が水問題を考える上での一つのメッセージと考えておりますが、流域単位で水を考えることは必ずしも簡単ではありません。ご参加いただいている皆様がこの水系の中、流れにのって、自由に動き回れるようにと出来る限りの準備をした積りではありますが、水問題と同じような困難が生じる かもしれません。ご協力をお願い申し上げます。

 フォーラム開催期間中、この三年間の成果を礎に、多くの参加者、特に途上国を中心に真に水問題に苦しんでおられる方々の参加を得て、対話を鍵に、水の世紀の冒頭を飾るにふさわしい水にまつわる行動の一つとしてこのフォーラムを開催できることは、主催者としてこの上ない喜びであります。
 この美しい自然、文化と伝統を有する京都、滋賀、大阪の琵琶湖・淀川流域にお集まりいただいた皆さまにお礼を申し上げるとともに、今日の深刻な水問題を克服し、より素晴らしい二十一世紀の地球を子ども達に残すため、この八日間を価値ある日々としていただけますよう心より祈念致し、私の挨拶といたします。