第3回世界水フォーラムプログラム発表式
Water Domeにて
平成14年9月3日13時30分〜
 
 
スピーチ前に、第2回水フォーラムの議長をお務めになられたオランダ皇太子殿下、オレンジ公に拝謁する橋本夫妻
 
 本日は、ウオータードームの最終日に開催しております第3回世界水フォーラム・プログラム発表式に多数お越しいただき、ありがとうございます。

 第3回世界水フォーラムの主要テーマを発表するに際し、第3回世界水フォーラム運営委員会会長及び組織委員会共同議長として、これから少しお時間をいただき、ヨハネスブルグの地で、このWater Domeにおいて確認されました水問題解決に向けた皆様の力強い意志と行動を第3回世界水フォーラムに引き継ぎ、より具体化していくために、所感の一端を述べさせていただきたいと存じます。

 さて、このヨハネスブルグで8月26日から開催されております持続可能な開発に関する世界首脳会議において、このWater Domeに集った皆様の白熱した議論、熱気を見てもわかるように、21世紀に具体的な行動をもって解決に導かなければならない最も重要な課題が水であることは、今更私が申し上げるまでもなく世界の共通認識になったといえましょう。

宇宙から撮影した写真が示すように、地球は青色の惑星であり、表面の60%が水面です。そういう意味では、水の豊富な惑星ですが、地表に生きる生命体の観点からすると水は必ずしも豊富ではありません。特に、20世紀の急激な経済発展と人口増加により、とりわけ人間にとっては、その事実は切実なものとなっています。そして21世紀に入った今日、水の世紀とさえ呼ばれるようになった今、明らかな水危機が訪れ、新たな試練を迎えようとしています。

 地球上に存在する水の97.5%は海水であり、人間が利用しやすい淡水は、2.5%に過ぎません。しかも、そのわずかな淡水の70%は、南極などの氷であって、残りの30%は地下水であり、地表に存在する淡水は、わずか0.01%にすぎないといわれております。

人類は、この地表で循環しているわずかの地表水と地下水を利用して発展してきましたが、20世紀の終わりとともに、その限界が明確に見えてきました。

 実際に世界各地で発生している水問題を見るとアラル海の干陸化、黄河の断流は既によく知られているところではありますが、似たような現象は、北米五大湖、チャド湖、コロラド川、ガンジス川などでも発生しています。

 又、地下水の問題は、目に見えないだけに更に深刻かもしれません。中国の穀倉地帯の北部平原では地下からの揚水の増加により、地下水位は、毎年、1.5mも低下し、インド全域でも毎年1から3mの水位低下が報告されています。米国の穀倉地帯である中西部大平原では、この乾燥地での農業をまかなうためオガラ帯水層からの揚水による灌漑に依存しており、水位の低下は12mにも及ぶと言われております。また、水位の低下とともに、地中の圧力低下が起こり、外部からの汚染物資の流入につながりつつあることも見逃すことの出来ない重大な問題です。

 このような地球の異変や水問題の原因は明確であります。明かに私ども人間にあります。
 1万年前に世界の人口は5百万人程度であったと推測されていますが、現在は60億人に達しており、1万年間で1200倍に増加したことになります。この異常ともいえる増大に貢献したのは、まず農業です。特に1万年前に人類が農業を手中にし、それまでの狩猟採取生活と比較すれば、遙かに大量の食料を安定して入手できるようになったことが、人口増加の大きな要因となりました。
 また、19世紀から20世紀にかけての渦巻きポンプなどの普及は地下水の汲み上げを容易とし、農業のさらなる発達をうながし、人口の増大に拍車を加えることとなります。

 そして、近年の急激な人口増加と経済発展は、水の集中的な利用を、場合によっては乱用とさえ言われる程までにも加速させました。この結果、利用可能な水と水需要のバランスが、ひいては、生態系や自然との共生のバランスさえもが、大きく崩れつつあります。そしてこの利用可能な水量と水需要量の不均衡は、単に量的な問題ばかりではなく、水質汚濁、水資源の劣化など深刻な水の問題をも引き起こしており、世界の多くの水辺で生物の多様性を減少させ絶滅危惧種の増加を誘発しております。まさに、"水の危機"と呼ばれるのも故なしとしません。

 更に増え続ける人口は2025年までには80億人にも達すると予想されており、2000年の6.5倍に当たる、約35億人の人々が水ストレスの深刻な地域に居住することになると予測されています。また現状でも、少なくとも12億人の人々が安全な飲料水へのアクセスを持てず、適切な衛生設備に恵まれていない人々は25億人にも達しており、このため水問題に起因する死者が年間で500万人から1,000万人に達するものと見込まれています。そして何よりも見逃すことのできない問題は、この大多数の人達が開発途上国に居住しているという現実であり、まさにこの意味において、水問題は貧困問題に直結する課題であります。

このような状況のもと、20世紀の終わりから、「水問題が何よりも大切」とのメッセージや警鐘は、いたるところで聞かれるようになりました。21世紀には、水需要がより一層逼迫し、更には水によって紛争が引き起こされるという予測もあります。まさに「21世紀は水の世紀」といわれるのも過言ではありません。

 しかし私は「水の世紀」という言葉を、"水の紛争の世紀"と言うことではなく、水が人の手で次々に受け渡されるように、「循環する資源」であるという特色に思いを至し、水を通じた地域の融和、更に言えば「人類が水を通じて融和に向かう世紀」という意味で使いたいと思います。

 我々、人類が増え続ける中、本当に水について希望はないのでしょうか。私は決してそうは思いません。今回、ヨハネスブルグに集い、このWater Dome に参加されている皆様も、問題の所在とこれに対処するための情報、ネットワーク、そして叡智を十分に有しておられるからこそ、ここに集まられているのであり、地球の未来をあるべき方向に正しく軌道修正できるものと信じてやみません。

 さて、日本も急速な近代化、工業化を経る過程で、多くの経験をしました。この経験を通じ、環境のもたらす"しっぺ返し"とでもいうべきものを最小限にして、持続的な開発を進める知見を第3回世界水フォーラムを通じて皆様に供与できるものと信じております。ここでその事例のいくつかをご紹介したいと思います。

 私の大好きな国に、趣味の山登りとも関係しますが、ネパール王国があります。ネパールは大変美しい自然と心豊かな人々の国ですが、経済的には最も貧しい国でもあります。日本も支援をしていますが、貧しいがゆえに、いろんなテーマが先行し、なかなか水が最重要なテーマとしてあがってきません。水問題が解決可能なものとして意識されないことにこそ問題があるとも言えましょう。
私自身、1984年より、小児医療の協力に携わってきました。20世紀中にネパールの乳幼児死亡率を1000人中、3桁から2桁に落とすことが目標でありましたが、残念ながら2桁に落とすことができませんでした。しかしながら、もしここで安全な水と衛生設備を供給することができれば、間違いなく乳幼児死亡率を2桁に落とすことができます。

貧困問題や水問題を考えるとき、この世に生まれたものが生きのびるためにも同等の権利が与えられる必要があり、この点で、安全な水にアクセスできない人への対応を考えることが先ず必要です。水道施設と衛生設備の整備には、インフラ整備だけでも年1800億ドルにも及ぶとの世界水ビジョンの試算もあり、公的資金だけでまかなえる額ではなく、新しい資金メカニズムの確立は避けては通れません。現在、世界水会議及び世界水パートナーシップ等によって進められている「水資源インフラへの資金導入パネル」に対して、大きな期待を寄せているところであります。

 他方、限られた資金の中で、如何に水道施設の整備を進めていくかについても、同時に考えなければなりません。これについては、日本の敗戦後の経験が、より役に立つのではと考えています。我が国が第2次世界大戦に敗れたとき、私は小学校の2年生でしたが、当時の日本は国土も荒れ果て、また、水道も破壊され、まさに一からのスタートでした。もちろん、当時は、農村部の水道はまだまだ整備されていない時代でしたから、日本全体で水道の整備を進める必要がありました。日本全体のインフラ整備を進めていかなければならない中、多くの事業で資金不足は否めず、同じように資金の問題につき当たりました。
 こういう資金がない中で、日本の水道施設整備を進めるために我々は、水道の会計を独立採算を基本とすることとしました。これは、水道事業管理者と住民のオーナーシップの元に、水道を利用する人々の合意形成を図りつつ、等しく料金を徴収し、施設の建設費と日々の運転にかかる費用にあてる方式を確立しました。これによって、わずか30年あまりで、水道施設の整備を進め、国民皆水道をほぼ実現出来ました。

 現在、水問題が最も深刻と想われるアフリカにおいては、「アフリカ開発のための新たなパートナーシップ」が発表され、アフリカのリーダの方々が「アフリカのオーナーシップ」を真剣に考え、実践していこうとの決意を固められたと伺っております。水道の整備には、まさにこのオーナーシップが大切であり、日本としてもこのようなノウハウを提供することで、水アクセスの改善に大いに貢献できると考えています。

 更に別の視点、施設整備の規模に目を向けたいと思います。私の地元の岡山でも大規模な上下水道の建設がある程度普及した後は、それほど大きな変化はなかったのですが、最近になって人口密度の小さな地域で建設が進められるようになりました。特に下水道については大規模な施設の建設が進んできました。しかしこれは、住民に対して大きな負担を課すことになります。このため、大きな施設の建設にこだわることをやめ、そのカバーできない部分を、上水の場合は簡易水道、下水道については合併処理浄化槽、こうした方式を用意することにしました。結果として、住民の負担については、少なくとも、上昇にブレーキをかけることができました。
これから、水の問題を考えるときに、こういったできるだけコストのかからない手法を考えるべきだと思っております。農村部に適用できる小規模な施設、技術を普及させることが出来れば、大規模な投資にたよらないで安全な水を供給できる、少なくともその可能性は大きくなります。

 また、日本は比較的水に恵まれた国との印象を持っておられる方も多いかもしれませんが、日本も永年渇水に苦しんでまいりました。
 1979年、北部九州を中心に大規模な渇水が発生し、元々、日本でも水に恵まれていない同地域では、中心都市である福岡市や北九州市で、九ヶ月にも及ぶ水道の取水制限を経験するなど、それは大変なものでした。
 こういった中で、福岡市や北九州市では市民一丸となって、節水に取り組み、限られた水を有効に使う努力を随所で行いました。例えば、レストランから全ての食器が姿を消し、紙製品に変わるなど、多くの節水対策が行われました。
行政側でも漏水対策の向上に取り組み、現在、福岡市の漏水率は、わずか2.2%までに改善されています。漏水対策に努力することは、水源施設や浄水場の整備など、多くのインフラ施設の有効利用にもつながります。この分野においても、福岡市の例を引くまでもなく、日本はトップレベルにあり、技術と合わせて民間の知恵を含め、貢献することは十分可能と思われます。

 水道のオーナーシップについて述べましたので、灌漑に関するオーナーシップについても少しふれたいと思います。
 日本でも農業の水を巡って古くから水争いがたえず、そういった中で、水を使う権利が生まれ、定着していきました。それと同時に、水を守り、管理する組織が生まれました。当初は水利組合といわれ、今は土地改良区と名前を変えているのが一般的ですが、日本では、農業用水、灌漑施設の整備、運営、管理についても、農業者が農業用水を管理する組織を作り、自らの手で、実施しているのが一般的です。

 世界の水利用の70%以上を農業が使っています。増え続ける人口を養いつつ、水問題を解決に導いていくには、農業用水の効率化はさけては通れない課題と考えます。そのためには、農民自らが、施設を管理し、節水等につとめることが先ず肝要と考えており、農民によって形成された日本の土地改良制度は、農民によるオーナーシップを提供できる点で充分注目に値する知見と考えています。
 
今回のヨハネスブルグサミットでも、流域の統合管理が水問題解決に向けての一つの鍵となっていると理解しております。
今年1月東京で開催されたアフガンニスタン復興支援会議は、世界中の注目を集めました。この会議へ私が持ちこんだものは、実は、アフガニスタンの復興とアラル海の問題をリンクさせなければならないということでした。
アフガニスタンの35%の地域から流れる水は、そのまま、トルクメニスタン、ウズベキスタンを通じてアラル海へ流入します。アラル海の現状については改めて説明する必要もないと考えますが、忘れてならないのは、アフガニスタンとタジキスタンの雪解け水がアラル海に注いでおり、水源となっているということです。面積的には、アラル海が受け入れている水の1/5はアフガニスタンからということになります。

ところが、これまで、アフガニスタンでは混乱状態の中で、必ずしも水資源の利用が有効に行われておらず、このため、下流国ではこれを農業等に利用することができた面もあります。しかし、これからアフガニスタンの復興を行っていく中で、アフガニスタンの産業をたて直さなければなりません。その中心が農業です。

そして、この復興を考えていく中で、下流国のことを考えずにアフガニスタンが自国の農業のためだけにその水を使ってしまった場合、トルクメニスタン、ウズベキスタンの農業等、下流の水使用へきわめて大きな影響を与え、最終的にはアラル海が更に縮小することにもなりかねません。こうなるとアラル海沿岸地域において水紛争、食糧危機をもたらす恐れすら出てきます。

アフガニスタン復興支援に関しては、流域一帯となった水資源管理を行い、地域の持続可能な開発を進める必要性を強調しておきたいと思います。しかし現在、アラル海沿岸国際水調整委員会(Internetional Coordination Water Commission of Central Asian States)には、その上流国であるアフガニスタンが入っていません。この機会に、上下流の一体的な水資源管理を、アフガニスタンの復興計画に位置付ることの必要性を強調しておきたいと思います。

 他方、日本には国際河川があるわけではなく、国境を越えた流域管理という事例は残念ながら存在しません。しかし、上下流一体となった流域管理が必要という意味では、反省も含めて知見を有しております。

 例えば、第2次世界大戦後、国土の大半が焼け野原でした。又、住宅の建設や、燃料のために、残っていた森林の伐採を進めました。そしてその伐採跡地には、生育が早く利用が容易な、杉、檜などの針葉樹の植林を行いました。これが後に大きな問題へとつながることになりました。針葉樹には広葉樹が持っていた水を蓄える機能、地表に積もった落葉が持つ水を蓄える機能、がありません。更に落葉は、肥沃な栄養分となり川を通じて、沿岸に運ばれ、栄養分を供給してきました。広葉樹を針葉樹に替えることは、沿岸漁業にもかげりをもたらすことになりました。

しかし、最近、沿岸漁民が上流にもう一度、広葉樹を植えようとの運動を開始しました。漁民が山に木を植え始めたのです。つまり彼らは、川の栄養分を昔のように取り戻すため、川の上流で植林活動を始めたのです。このような動きこそ、人類の英知といっても過言ではないかもしれません。こうした活動によって、地域の融和が図られ、上下流の一体感が醸成されることにもつながります。まさに「水の世紀」の希望は、こんなところに存在すると私は固く信じております。

 水問題、貧困問題が最も過酷なアフリカにおいては、水の適正な管理は、現状ではわずか数パーセントにしか達っしていないと聞いております。このアフリカの地においても、上下流を含めた流域一体の管理が現実のものとなるならば、問題の多くを解決できるはずです。希望がそこに存在すると信じます。

 さて、水問題は、利水の問題ばかりではありません。ここにご参加の皆様にとりましても、今年6月以降の世界各地における洪水の発生は、あらためて水がもつもう一つの問題を強く意識させたはずです。

 8月の初めからヨーロッパをゆっくり移動した低気圧がこの地域に大量の雨を降らせ、ドイツ南部、チェコ、スロバキア、ハンガリー、そしてロシアに至る広い範囲で記録的な洪水に見舞われています。東ヨーロッパを流れるドナウ川やエルベ川という大きな川が溢れ、黒海沿岸地域まで含めると100人を超える人々が亡くなりました。数十万人の人々が避難を余儀なくされ、数日にわたって水に浸かった建物の多くが危険な状態にあるといわれております。

 150年来とも200年来とも言われる今回の洪水は、中世の街並みや歴史的な遺産のたくさん残るチェコのプラハやドイツのドレスデンなどの、東ヨーロッパの多くの街を水浸しにしました。プラハでは動物園の動物が濁流に流され、アザラシが250キロも下流で救出されるといったニュースも報道されました。また、ドレスデンでは、ルネッサンスやバロック様式の美術作品が数多く収められているツウィンガー宮殿が浸水し、4000もの作品を上の階に運ぶ懸命な作業が夜を徹して行われたようです。

 私は、今年の1月、ネパールを訪問した際、現地で砂防技術の協力を行っている日本人技術者から、今年は氷河の雪解けが早く、早くも氷河湖が満杯になりつつあり、土砂崩れや鉄砲水の発生など、忙しい年になりそうだと告げられました。
 又、エベレスト清掃登山を実施している野口健という元気な日本のアルピニストからも、エベレストやヨーロッパアルプスの氷河の後退など、地球の異変を告げる情報、これまでは考えられなかった場所での登山隊の悲しい事故の話などが多数寄せられています。彼は、氷河が溶けだした川辺の心地よい川の流れを、氷河の後退と地球温暖化の影響に重ね合わせ、「地球が血を流している」と表現しましたが、まさに、地球が悲鳴を上げているのではないでしょうか。

 そして、この悲鳴の一つが、洪水という形となって、我々に警告を発しているのではないでしょうか。

 これまでの2回の世界水フォーラムを通じた問題提起や議論を見てみますと、どうしても地域的にヨーロッパやアフリカにおける水の問題、すなわち水の不足の問題が数多くとり上げられてきたように思います。洪水問題など今までアジアに特徴的な水の問題とされていたような課題についてもクローズアップし、地球全体の水問題を正確に反映するフォーラムにしたい、と考えております。

 今回のヨハネスブルグサミットにおいても、日本が調整役となり、WMO(国連気象機関)等とパートナーシップを組みつつ、国際的な洪水ネットワークを形成し、洪水対策に関する知見と情報の共有を図る活動を約束文書に登録することになったと聞いております。このように地球温暖化に対しても、新たな行動が起きつつあることを大変心強く思っています。

 更に、地球の異常は、地球温暖化の影響による海面上昇によって、島、国が消えてしまうかもしれないというショッキングな報道がなされているツバル共和国など、南太平洋の島嶼国においても顕著に確認されており、我々はこういった問題にも真摯に目を向けていかなければなりません。
 日本政府は、私が総理在任中の1997年に日本・南太平洋フォーラム首脳会議(Japan-South Pacific Forum Leaders Meeting)を開催し、、又2000年には、沖縄サミットに先駆け太平洋・島サミットを開催するなど、首脳レベルの対話を通じ、これら島嶼国の問題に真剣に取り組んでおります。

 又、水分野に目を向けますと、これら島嶼国は地形条件よりダム等水源施設の建設が困難なことが多く、もともと水不足に悩んでいたところに加え、近年は海面上昇によって、従来から利用して生きた井戸が海水の侵入を受け、利用出来なくなると言った深刻な問題を抱えるようになっています。
 このような問題に対しても、現在、日本の佐賀大学とパラオ共和国政府との間で、海洋温度差を利用した発電によって海水淡水化を実施する学術研究交流を開始しており、その成果に大きな期待を寄せているところであり、3千にも及ぶ島々より構成される日本の知見が、少しでも南太平洋等島嶼国の問題解決のお役に立てればと思っております。

以上、世界の水問題の解決に向けて貢献できると思われる日本の知見について、その一部を御紹介させていただきました。私は、ここに御参集の皆様、それぞれの国が持っている知見や叡智、これは、先進国ばかりではなく、むしろ途上国にこそ自然と向き合いつつ、長年にわたって培かわれてきたその地域に根ざした伝統技術があるものと思いますが、これらの叡智が、第3回世界水フォーラムを契機により一層共有化され、誰もがこれを活用出来るようにすることが大切と痛感しております。
 幸い、今回のヨハネスブルグサミットの水分野において、パートナーシップを形成する動きが加速され、ネットワークという言葉が問題解決の鍵として共通に認識されるようになったことは大変喜ばしいことと受け止めています。

最後となりましたが、本日、このプログラム発表式にご参加いただきました皆様に心からお礼を申し上げるとともに、このヨハネスブルグの地で確認されました水問題の数々の点について、第3回世界水フォーラムに向けて更に発展させていただきたいと存じます。その上で、京都、滋賀、大阪の地で皆さんと是非お会いしたいものと願っております。
 このヨハネスブルグサミットでの成果 を来る第3回世界水フォーラムで更に発展させ、具体的な行動につなげることが出来るならば、今日の深刻な水問題を克服し、より素晴らしい21世紀の地球を世界の子供たちのために残せるはずだ、私はそう信じてやみません。
 マラケシュで生まれ、ハーグで大きく清らかに育てられた水が、このヨハネスブルグで更にみがかれ、そして皆様のお力添えによって、京都、滋賀、大阪に力強く奔流となって流れ込んで来るものと信じて疑いません。

 ご静聴有り難うございました。