「アジア太平洋環境開発フォーラム(APFED)の意義と今後の役割」
平成14年8月28日 午後4時〜6時
 
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1 世界の持続可能な発展に役立つAPFEDの活動成果

 本日2日目を迎えましたヨハネスブルグサミットは、アフリカの開発問題をテーマの一つとして大きく取り上げています。地球サミット以降のこの10年間に、アフリカは世界の発展からかえって取り残された地域であるとまで言われています。こうした事情から、6月にカナダのカナナスキスで開催された先進8ヶ国首脳会議では、アフリカに対する支援強化を打ち出しました。
 私は、ここに御出席の皆様と同じく、アフリカ地域の社会経済を底上げする必要性を十分に認識していることを、まず申し上げておきたいと思います。
 その上で、私が議長を務めるAPFEDは、社会経済の底上げ、いわゆる開発のために、人間と環境との関係がどうあらねばならないかを、今一度基本に戻って考えているところだ、ということを敢えて申し上げたいと思います。APFEDは、アジア太平洋地域のこれまでの開発の取組、その成果と問題点などをしっかりと見据えながら、将来に向かって、より衡平で真に持続可能な発展のモデルを提示することを目的として活動を行っているのです。
 APFEDは、最初の2回の会議においては、ヨハネスブルグに向けた重点的な提案を行うべく、集中的な討議を行いました。議長としてサミングアップするのが困難であったくらい、滋味豊かな、含むところの大きい意見が極めて多数出されました。本日はメンバーの中から、ハッサンさん、テプファーさん、キム・ハクスさんがいらっしゃっています。後でお話が聞けましょう。
 私は、APFEDの今回の提言、そして、その最終成果物は単にアジア太平洋地域にとって有意義であるばかりでなく、アフリカを含む世界のすべての地域で持続可能な発展を実現させるために意味あるものとなると確信しています。
 私がこのように確信する理由は3つあります。
 第1は、アジア太平洋地域が世界の経済発展のセンターとなっている地域であることです。
 経済危機を経験したとはいえ、アジア太平洋地域は引き続き経済発展を遂げている地域であり、それに伴う、大気や水質の汚染、廃棄物、土地や淡水資源の逼迫などの問題も数多く抱えており、アジア太平洋地域は、いわば地球環境問題の縮図に不幸にしてなっていると率直に申し上げなければなりません。今後の開発では、単に経済的な果実を増やすだけでなく、同時並行的にこれらの環境問題を解決することにも力を注がねばなりません。また、これから開発するのであれば、このような環境問題を発生させない形の、一層賢明で実質的な利益の大きな開発の仕方が選ばれる必要があります。いずれにせよ、失敗の経験も多数あるアジア太平洋地域での持続可能な発展の実現は、世界各地で持続可能な発展を実現させる上で重要なモデルを提供するものと考えます。
 第2は、アジア太平洋地域が、社会的、経済的、文化的、そして自然的にも実に多様な地域であることです。
 持続可能な発展に関しては、すべての地域に適用可能な共通の方策はあり得ませんが、多様性に富んだアジア太平洋地域における持続可能な発展のモデルは、同じく多様性に富むアフリカ地域や世界の他の地域が、多様性を保ちながら発展していく上で大いに参考となるものと考えられます。
 第3は、アジア太平洋地域が、多くの人口を抱え、貧困人口も多い地域であることです。
 世界人口の約6割を擁するアジア太平洋地域の4人に1人は1日1ドル以下で生活している人々です。その数は9億人に達し、サブサハラアフリカの総人口6億4千万人を上回る数になっています。したがって、貧困解消の観点からも、アジア太平洋地域における取組は他の地域の取組を考える上で重要な視点を与えるものになると思います。


2 APFEDの活動の背景―特に、淡水資源問題についてー

 さて、APFEDではヨハネスブルグサミット最終準備会合に間に合うように重要事項に絞り込んで提言を作成いたしました。提言の全体像については、後ほど、APFED事務局長であるIGESの森嶌理事長より紹介があります。私は、ここで特に淡水資源問題に関する提言を例として取り上げ、その背景や意義について触れたいと思います。
 私は、来年3月に日本で開催される「第3回水フォーラム」の組織運営委員長も務めており、淡水資源問題には大きな関心を有しています。
 APFED提言の中から一つだけ取り出して申し上げれば、国際河川や国際湖沼の淡水利用に関わる紛争が今後増大すると予想されておりますが、これを回避するために、関係国や関係者間の協力の仕組みを構築することが極めて重要になるという点であります。
 アジア太平洋地域は世界で最も水需要が伸びている地域であり、1人当たりの年間利用可能量は他の地域に比べて最も少なく、世界平均の3分の2に相当する約4200トンにとどまっています。このため、淡水利用を巡る地域紛争が心配されます。淡水は地球の恵みでありますが、決して地球人類平等に分け与えられているものではありません。上流で水需要が増えたり、森林が切り払われれば、下流の取り分が失われます。下流の湖が汲み上げられてしまえば、上流域での降雨に悪影響が生じます。
 本年1月にアフガニスタン復興支援国際会議が東京で開催されましたが、例えば、アフガニスタンの復興支援に際しても淡水を巡る地域紛争を回避する視点が重要であると、私は考えております。
 他方で、地球環境問題の進行に恐らくは関連して、南アジアやヨーロッパでは、国境を越えた豪雨や洪水なども起きています。私は、アルピニストでもありますが、ヒマラヤの氷河湖の拡大や森林の減少などをつぶさに見ております。ヒマラヤの雪どけ水はアジアの多くの人々にとって生活のよりどころです。また、近年顕著になっている強力なサイクロンやタイフーンの発生、豪雨などが大洪水に結びつくことは想像に難くありません。淡水資源はますます使いにくいものになることは疑い得ないと感じております。さらに、総ての生命の母胎である、あの大きな海にも異変が生じております。アジア太平洋の島国からは、実際に、国土の水没の悲鳴が上がっています。
 地球の恵みでありすべての人類に不可欠な淡水資源の利用の困難性が高まっていくことは、世界平和を考える上でも重要な視点であり、ヨハネスブルグサミットに参加する各国首脳に是非とも認識していただきたいと思っています。私たちは、国境などに関わりなく、一つの織物になっているこの地球の自然との共生を果たしていかなければならないのです。

3 APFEDの誓約

 最後に、APFEDの活動が行動志向のものであることについてもお話したいと思います。
 私たちAPFEDメンバーは、ヨハネスブルグサミットで考慮していただきたいことを提言として提出するだけでなく、自らも具体的な行動をとることを約束し、約束文書に登録することにいたしました。
 私たちは、APFEDが2004年末に最終報告書を作成するべく作業することと並行して、その間も、各国政府が今回の提言を実現する際に参考となる優良事例の収集分析や各国政府を側面的に支援しうる政策研究機関の国境を越えたネットワーク形成などを行うことにしています。
 本日のサイドイベントでは、こうしたAPFEDの今後の活動についても、様々な観点からご意見を伺うことを楽しみにしております。本日の御意見は、APFEDの最終報告書に活かさせていただきます。
 
 ありがとうございました。