同時テロ・インタビュー 『イージス艦派遣は当然』 
元首相・橋本龍太郎氏


読売新聞 東京朝刊 政治面
 
平成13年11月09日
――米同時テロの歴史的な意味をどう考えるか
「十月三日からキューバ、エジプト、アラブ首長国連邦(UAE)を回った。ロンドンを出て一時間後にアフガニスタンへの米国の攻撃が始まった。いろんな意味で世界が変わったと実感させられた。ところが、日本の置かれている状況が、国内でピンと来ていない。日本人が殺されたらその犯人を捕まえ、二度と起こらないように努力をするのは政府の責任だ。それは日本自身が考えることで、人をお手伝いすることとは違う。同時に、日本の状況が、国際社会に正確に情報発信されてない怖さをしみじみ感じた。エジプトとUAEでの現地マスコミとの会見で、『日本は米国と一緒にアフガンを攻撃するのか』『憲法改正するのか』と質問された。それほど誤解が生じていた。日本の情報発信能力がいかに少ないか。イスラム世界への説明能力をどう発揮するかについて、もっと敏感にならないといけない」

――日本は中東諸国などとどう連携すべきか。
「今日、私は駐日イラン大使や緒方貞子・前国連難民高等弁務官と話をした。日本では、パキスタンに対するアフガン難民支援の話はたくさんするが、イランのアフガン難民にはほとんど何も言ってない。日本外務省は、アフガンだけでも様々なグループとネットワークを作ってきた。冷静に見て、できることをきちんとフォローすることが大事ではないか。今から(アフガン)復興、復興と騒いでいるが、それ以前の平和をどう築くか。増加する難民に今冬、どう安全な水を供給するかだけでも大変だ。それを福田官房長官、小泉首相にもお願いした」

――テロ発生後の日本の動きをどう評価するか
「初期の議論がちょっと混乱した。まさに日本人が殺されたことが(議論から)抜け、自衛隊の海外派遣が良いか、悪いかという話になった。政府の行政責任で一番大きなものは国民の安全を守ることだ。憲法前文とか九条の話がずいぶん出たが、私は(内閣が「外交関係を処理する」と規定した)憲法七三条の問題だと思っている。自衛隊がその中の重要な位置づけを担うのは当然だ。ただ我々は戦闘に行くのではないという一点が大事だ。テロについて後方支援、前方支援があり得るのか。私はないと思う。医療も輸送も難民支援も危険が全くないものはない。だとすれば、自分を守るための武器を持ち、かつ自分だけ守って一般の人を放っておけるわけがない。そういう(武器使用要件の)要素は(派遣自衛官に)与えておくべきだ」

――イージス艦の派遣についてどう思うか。
「なぜすぐにイージス艦を出さなかったのかと思う。日本が取り得る情報収集の手段の中に確実にイージス艦という選択がある。(米国に)頼まれた、頼まれないではなく、日本自身のために、公海上にイージス艦を派遣して努力するのは当たり前だ。(今も)出すべきだと思っている。ただ、官邸や国会(の警備)に自衛隊を使う話は順番が違う。第二次大戦中も警察に(警備を)ゆだねた。危険情報があったら所要の手続きを経て、自衛隊にも警備してもらえばいい。現に治安出動があるし、そのルールを変えることでも対応できる」

――テロ対策特別措置法以上の対応には憲法改正が必要という議論もある。
「それは憲法九条を前提においた議論だ。現行憲法を作る時にこういうテロを想定していたか。九条の解釈だってこんなテロを想定していたか。九条は国と国と(の問題)だ」

――集団的自衛権の憲法解釈の見直しについては。
「なぜ別種の議論を組み合わせ、今やらないといけないことを混乱させるのか。ただ、現場にいて、『九条に違反するから私は逃げます。あなた方を守れません』と宣言して自分だけ守れるか。そういう議論をしていたら、何も出来ないだろう」
(聞き手・内田明憲)