橋本元総理のキューバ訪問
(概要と評価)
 
10月4〜6日、橋本元総理がキューバを訪問したところ、その概要・評価次のとおり。

1.概要
(1)カストロ国家評議会議長との会談
●4日、橋本元総理のキューバ到着直後2時間30分に亘り、また、6日には昼食をはさみ約6時間に亘りカストロ議長との会談が行われた。
●4日の会談では、橋本元総理より、ペルー事件(1996年12月〜97年4月)の際にキューバ政府が示した特別な配慮(ゲリラメンバーを受入れる用意がある旨の表明)に対する謝意をカストロ議長に伝達した。 6日の会談では、米国同時多発テロ事件をはじめ、日米関係から環境問題等極めて多岐に亘る話題につき経験と知識に基づく掘り下げた議論が展開された。先方は我が国の経済情勢やアジア情勢に高い関心を示した
●カストロ議長は食欲もあり健康そうで、会談に精力的かつ意欲的に対応。また、同議長は自ら元総理に「友人(amigo)」と語りかけ、非常に「ウマが合う」様子であった。
(2)その他要人との会談
●ラヘ国家評議会副議長、ペレス外務大臣、カブリサス国際経済担当大臣と会談。 アラルコン人民権力全国議会議長と晩餐。米国同時多発テロ事件、日・キューバ二国間関係、ハバナ湾の環境問題、キューバの観光開発等につき意見交換。
(3)充実した日程
●ハバナ・グラン劇場への音響機材文化無償署名式及び二件の草の根無償贈与契約締結式への立ち会い、日系社会との交流、ハバナ・グラン劇場におけるクラシックバレエ観賞(橋本元総理臨席のアナウンスに観衆からスタンディング・オベーション)等。
(4)先方接遇
●ゲラ外務次官による空港出迎え、元総理の車列に対する警備や、道中の交通規制等、キューバ側の接遇振りは、これまで例のないほどの手厚いものであった。
 
2.意義と評価
(1)元総理直々ペルー大使公邸占拠事件に関する謝意伝達
事件当時日本政府の最高責任者であった橋本元総理自身がキューバを訪問し、カストロ議長に対し直接謝意を表明したことをカストロ議長他キューバ側要人が高く評価。合計8時間以上に及ぶ元総理とカストロ議長との会談とともに、両国の更なる信頼関係の構築に大きく貢献。
(2)良好な日・キューバ関係の強化
ここ数年来、頻繁な要人往来等を通じた両国関係の緊密化の流れの中、総理経験者である橋本元総理の訪問は、それ自体意義が大きい。 多方面にわたる豊富な国際経験を有する橋本元総理が、カストロ議長及びキューバ政府要人と大所高所から幅広い意見交換を行ったことにより、国際社会情勢に関する我が方の考えをキューバ側に示すことができた。特に米国同時多発テロ事件についての我が国の姿勢を明確に伝え、また本件にかかるキューバ側の立場も改めて把握することができた。
 
橋本元総理のエジプト、ア首連訪問
(概要と成果)
 橋本元総理は、10月7日から12日の日程で総理特使としてエジプト、ア首連を訪問し、エジプトではムバラク大統領、ムーサ・アラブ連盟事務総長と会談した他、スエズ運河架橋開通式典に出席。ア首連では、スルターン副首相、ハムダーン外務担当国務相と会談を行った。

1.エジプト訪問の概要
 (1)ムバラク大統領との会談(8日)
 (イ)二国間関係
   ムバラク大統領は、今回完成したスエズ運河架橋等これまでの日本の協力に謝意を表明。橋本元総理よりは、今般完成したスエズ運河架橋への協力は自分が総理の時に協力を閣議決定したものであり感慨深い旨発言。
 (ロ)9月11日テロ攻撃
   橋本元総理より、68カ国の一般市民を犠牲にしたテロを前にして、わが国は一歩もたじろぐことなくテロと戦っていく決意であり、そのために世界と協力していきたい旨強調し、ムバラク大統領のテロに対する断固とした姿勢を評価。これに対してムバラク大統領は、少なくとも5名のエジプト人の犠牲者も出たと述べた上で、テロとの戦いの重要性を説いてきた自分に長年欧米が耳を貸さなかったことを批判しつつ、テロには強い態度で臨むことが必要である旨発言。
 (ハ)中東和平
   ムバラク大統領は、テロ問題の根本はパレスチナ問題にあり、米国がイスラエルに対して圧力をかける必要がある旨発言。橋本元総理よりは、日本はイスラエルに対して必要な際には率直に意見を述べており、日本の中東和平に対するこれらの立場は不変であるとした。
 (2)ムーサ・アラブ連盟事務総長及びアラファトPLO議長との会談(8日)
 (イ)9月11日テロ攻撃
   橋本元総理より、日本も本事件で数多くの行方不明者を出した、日本は米英に協力して犯人を追い詰めるため全力を尽くす旨発言。これに対してムーサ事務総長は、今回の米国でのテロを含め、テロは受け入れられないという立場においてアラブ諸国は一致しているとした。
 (ロ)中東和平
  (@)橋本元総理より、9月11日テロ攻撃があろうとなかろうと中東和平は推進しなければならない旨発言。ムーサ事務総長よりは、中東和平問題の解決はテロへの取り組みの条件ではないかも知れないが同時に取り組むべき問題であり、イスラエルへの圧力が必要である旨強調した。
(A)その後、アラファト議長が同席し、日本からの援助に感謝の念を繰り返し述べつつ、イスラエル軍のヘブロン包囲等の現状を説明し、シャロン首相は一連の合意を守っていない旨強く発言。
 (3)スエズ運河架橋開通式典出席
(イ)9日午前、橋本元総理は、総理代行としてスエズ運河架橋開通式典に出席。元総理は、ムバラク大統領と共に除幕式、テープ・カットを行い、同架橋プロジェクトが日・エジプトの共同作業の賜物であることが改めて印象付けられた。
(ロ)また、式典におけるスピーチでは、同総理は、同架橋がアジア大陸とアフリカ大陸の人と文明を結ぶに相応しい架け橋であるとし、末永く日・エジプトの友好関係を象徴し続けることを祈念している旨述べた。

2.ア首連訪問の概要
 (1)スルターン副首相との会談(10日)
 (イ)9月11日テロ攻撃
 橋本元総理は、ア首連がタリバーンと外交関係を断絶したことを評価し、国際社会が一致団結していく重要性を伝えた。スルターン副首相は、なぜあのようなテロが発生したかを問うべきであり、イスラエルによるパレスチナ人殺害こそが問われるべきである旨強く述べた。
 (ロ)地域情勢
 スルターン副首相よりテロ事件に世界の関心が集中している一方でパレスチナやイラクでの困難な状況に対処がなされないことへの懸念が表明され、橋本元総理は我が国の中東政策を説明。
 (2)ハムダーン外務担当国務相との会談(10日)
 (イ)9月11日テロ攻撃
 橋本元総理よりわが国の立場につき説明したのに対し、ハムダーン外務担当国務相から、ア首連が事件発生以降テロと闘う方針を固め、米英等とも協力する意思を表明している旨述べた。
 (ロ)米英軍によるアフガニスタン攻撃
 橋本元総理よりアフガニスタン周辺地域の地形条件から軍事行動は困難が予想されるだろうと述べたことに対し、ハムダーン外務担当国務相から北部同盟がその経験からいずれカブールを制圧し得る旨発言。
 (ハ)地域情勢
 ハムダーン外務担当国務相から、ア首連によるパレスチナ支援が紹介され、わが国の支援及び和平努力が評価された。
 (ニ)危険度引き上げ
 ハムダーン外務担当国務相からわが国がア首連に対する危険度を引き上げたことに対し、右を引き下げるよう要請された。

3.成果
 (1)9月11日テロ攻撃
 (イ) 一連の会談で、橋本元総理は、9月11日テロ攻撃は、わが国を含む68カ国の無実かつ非武装の一般市民を攻撃した非道な行為であるとの位置付けを明確にした上で、テロと戦っていくとのわが国の決意を直接伝達すると共に、テロとイスラムを混同すべきでなく、アラブ・イスラム世界を含めた国際社会の連携強化の必要性をアラブ世界で発言力を持つリーダー達に直接訴えることが出来た。特に、米英軍による空爆開始(7日)の直後(かつ、アラブ連盟(9日)とイスラム会議機構(OIC)の緊急外相会議(10日)の直前)にこうした働きかけを行うことが出来たのはタイミング的にも良かった。  
 (ロ) また、ムーサ・アラブ連盟事務総長との会談において、先方より、テロは受け入れられないとの立場でアラブ諸国が一致している旨発言があったことは、米英等の政策に対する立場に各国間で温度差があるアラブ諸国の事情を鑑みれば、評価出来るものであると言える。  
 (ハ) 戦闘目的のためでなく、難民支援をはじめとする人道的目的のためのわが国の協力につき、先方にアピール出来た。  
 (2)中東和平  
 (イ) テロには強い立場で臨むべきこと、イスラムとテロは相容れないものであるとの認識で一致。  
 (ロ) 同時に、9月11日の有無に拘らず、中東和平を推進すべきであることで一致。  
 (ハ) 特に、殆どの会談相手は、テロ根絶のためには中東和平問題を進展させることが根本的に不可欠であると主張。  
 (3)二国間関係  
 エジプトでは、橋本元総理は、スエズ運河架橋開通式典に出席。全般的に、カイロから式典会場へのヘリ移動のアレンジ等、エジプト側の配慮が様々なところで見られた。また、式典の模様は大々的に現地TVで同時中継された他、特別番組で詳細に報道される等、エジプト国民に対するわが国の経済協力に関する広報的効果も大きかった。