ハーバード大学での講演・概要」

1999年10月12日

「世界の中の日米関係」

講演概要

(日米安保体制)
● 冷戦後の民主主義は、イデオロギーノの区域は無くなったが、民主主義及び宗教の間の食い違いが出て、基礎ができていないままに市場経済への志望が拡大し、その過程で摩擦が発生してきた(コソボ、東チモールなどがその例)。
● 人権、民主主義等の国際的ルール、概存の国際秩序と国際経済秩序をどうバランスさせていくかが課題でありれ、米国が他の国々と協力をしながらどんなあ舵取りしていくかが21世紀に向けて重要になっている。
● 細川政権の時の貿易交渉がこじれ、政府調達、自動車等の問題は未解決のままの残り、村山内閣は社会党の村山氏が首班であったために、米国の信頼を取るには大変であった。
● 総理に就任した時、米国との関係は必ずしもよくはなかった。日米関係を安定させるためには、日米安全保障体制の重要性の再確認とそれを時代にあったものにする努力を日本が怠らないということを世の中に明らかにすることが一番大事と考えた。
● 日米安保体制の堅持がアジア太平洋地域ヘ安心感を、安定感を与えていることを互いにもう一度知ることが必要と痛感。米軍の日本駐留が、アジアの安定の上で大切で、これが日本の大きな貢献としてアジアの首脳からいかに評価されているかを改めて知った。
● より時代に即応した、より信頼できる日米安保体制ヲ構築するために平成8年4月にクリントン大統領との間で日米安全保障共同宣言を公表し、日米安保体制の意義を再確認した上で日米防衛協力の方向性を示し、これに沿って日米防衛協力のための指針を見直しの、ガイドライン関係法の整備に手を着けた。日本の国内では素直に受け入れられずに、総理任期中には国会での審議も行われなかった。
● 昨年秋の北朝鮮野テポドンの発射により状況が大きく変わり、ガイドライン関係法は国会を通過した。北朝鮮はすでに日本をカバーするノドンを持っており、テポドンの発射により何故日本の国会、 メディアが大急ぎで法案を通過させたのか分からない。この事件では、不安定な北朝鮮が自力で宇宙区間に進出できる国になった事が重要である。従って日本は自分の国を守ることに真剣になる必要があり、かつ日米の協力も重要である。

(経済問題)
● 世界1位と2位の経済がぶつかり合うのは当然である。自分の価値観を当然のこととして相手に押しつけない、一つの分野の経済問題が全体の政治の話と絡めてしまう様なやり方ではなしに、密接な連絡により誤解の生じる余地を減ら続ける必要がある。
● 引き締めをやりすぎて自分は選挙に負けたが、小渕総理は拡大財政を採用し、長期金利についても、国際の財政投融資資金、日銀による買いオペレーション等を通じて抑制に努めてきた。しかし、これは景気回復に一定の役割を果たしてきたが、同時に超低金利により、高齢者の消費の沈滞、公益法人での雇用の減少等の副作用が生じてきた。
● 今日この場で「長期金利を市場に委ねよ」との提言を考えていたが,最近の急激な円高を巡り、円高による経済回復へのマイナスの影響、G7での協調に向けた動き、日本の金融政策の対応と対応自体の見方についての混乱等複雑な事態の展開が出てきたので、今提言を行うと市場に無用な混乱と憶測を生むとの懸念をせざるを得なくなった。
● アジアでは中国と香港が一国二制度の下で異なる通貨を持ち、独立した金融政策を進めている。制度共存のプラス面とマイナス面をどう整理して帰着していくのか、非常に興味がある。
● 欧州では独立した11の主権国家が共通の通過ユーロを持ち、共通の欧州中央銀行を持つという壮大な試みをスタートさせた。ユーロの誕生は日本にも極めて大きなインパクトを持つことになった。
● この歴史的な事業を目前にして、円の国際化、金融システム改革、日本版ビッグ・バンを今のうちにどうしても実施していかなければならないと決心し、自らのイニシアチブとして進めてきた。
● ユーロの誕生はドルと対抗しうる基軸通貨になりうるが、円を単なるローカル・カレンシーにはしたくないと考えてきた。何故円が国際通貨の一角を占める必要があるか。単なるプレステージではない。日本はやく1兆ドルの債権超過国、2位のドイツは1,600億ドル米国は最大の債務超過国(1兆ドル)である。債権超過は経常収支黒字の資金還流という形で債権が蓄積された。資金の還流は、英国はポンド建て、米国はドル建てと自国通貨建てで行われてきたが、日本の場合は、ほとんどがドルという他国の通過で行われている。そのために日本の対外投資かは大きな為替リスクを背負うことになり、対外投資を極めて不安定な状態にする。これは日本のためにならないだけではなく、日本からの資金還流を必要とする世界の他の国にとっても望ましいことではない。
● 米国を巡る対外資金フローの数字をみると、サマーズ長官は資金を流せと日本に言っているが、98年は日本から米国に資金が249億ドル流れた、今年は円高により、逆に米国から日本に95億ドル流れている。欧州から米国には昨年1,060億ドル、今年は1,247億ドル入ってい。日本の投資家が為替リスクにさらされずに済むためには、自国の通貨で資金還流ができるようにならなければならない。そのためには、円が国際通貨の一角を占める必要がある。
● 東京市場が真に国際市場として活性化しない限りは、円が真の国際通貨として育つことはあり得ないと考え、日本の金融資本市場の国際化を一挙に進めようとした。改革のフロント・ランナーとして為替管理の撤廃は進んだ。為替管理が完全に自由化された時、依然として日本の市場が他の市場にないようなハンデイキヤップを続けていれば確実に金融市場は空洞化する。
● この狙いは当たりすぎる位当たり、国内の制度改革が急速に進んだ。有価証券取引税の廃止や、国債の源泉徴収の廃止などいわゆるグローバル・スタンダード化が進んだ。今までの正当な競争原理が働かないような様々な規制がほとんど完全に撤廃された。
● こうした金融システム改革のプロセスがバブルの崩壊とその後の状況で大きな困難に直面していた日本の金融界は極めて大きな試練であった。金融セクターの不安定化が日本経済の沈滞を一層深刻化させたとして、自分が叱られるのはある程度正当性があると認めなければならないと思っている。この困難の中から日本の金融資本市場の改革と同時に金融システムの自由化、国際化が必ずや日本経済を繁栄に導くと信じている。
● 改革の中で大事ではあるが、メディアがあまり大きくうなが捉えなかったことの一つは、持ち株会社が第二次世界大戦後初めて作れるようになったこと。占領軍の指示で財閥界解体の目的で独占禁止法が生まれ、持ち株会社を持つことが禁止されてきた。経済界は企業グループを作る手段として株の持ち合いという対応をしてきた。我が国の上場企業のうち株式の半分が法人の持ち合いにより保有されてきた。法人株の持ち合いが日本の企業経営に非常に大きな影響を与えた。互いの経営には口を入れないとの不文律ができ、その会社は株主のことを考えた経営にはならず、株主も経営に対し口を入れるのが難しくなった。日本の資本主義を経営者資本主義とでもいうようなものにしてしまった。株主の声が経営に反映しない以上、個人が資産運用の手段として株主を保有する魅力が非常に少なくなり、我が国の全上場株式のうち個人のポート・フォリオとして保有されているものは、わずか6%程度で、持ち株会社に変われば、株主の声がより経営に反映されるようになる。個人が株を保有する魅力も増えることになる。個人の資産の中の株の割合も増えてくることになる。中長期的に我が国の資本主義を経営者の資本主義から投資家の資本主義へと必ず変えていく大きな可能性を持っている。
● 金融システム改革、市場の自由化、国際化の中で、日興證券とシテイー・グループの一体化、日産自動車とルノーの提携、リップルウッド・グループに譲渡されることになった日本長期信用金庫など、日本の経営に資本面からも経営面からも外からの新しい血が入り出している。
● 私はこうした生みの苦しみの時期に政治の責任を持つことになった。今ようやく生まれ落ちた赤ん坊達がそれぞれに育ちつつあるそれをじっと見守っているというのが率直な感想。
● 日本は変われるのか、日本の経済は本当に変化できるのかとの質問を最近よく受けてきたが、私は必ず日本は変われる、そして必ず変化すると責任を持って答えてきている。何故ならば、四つの事柄すなわち、2000年4月から国際ルールに沿った会計基準の導入、ペイオフ制度のスタート、財政投融資制度ノ根本的な変化、2001年1月から新しい中央省庁体制ニ移行(どこかで意識を思い切って変えさせなかったら仕事はできないので会計年度の途中にした)で、日本は変わらざるを得ないからである。
● ユーロがスタートして外貨建て債務保有動向に生じた変化の例として、ある日本の大手生保の保有外貨債権の例を紹介すると、昨年3月ドルは84%、今年の3月ドルは63%、ユーロ36%、今年6月ドルは49%、ユーロは46%となっており、一極通貨ではなくなるとの方向性が出ている。