国際寄生虫対策(橋本イニシアティブ)ワークショップ 開講式
「開講にによせて」

1999年3月8日


 
国際寄生虫対策ワークショップとは

実施機関:平成11年3月2日から平成11年3月27日(26日間)

開催目的:
A.各国で寄生虫対策を進める政策立案的立場の者及び研究者に対し、外務省及び厚生省より国際寄生虫対策の趣旨につき説明し共通理解を得る。

B.各国事情の発表及び討議により、今後の寄生虫対策推進の展望、具体策及び課題を明らかにし、各国共通の理解を得る。

C.上記討議の参考として、日本における寄生虫対策例を中心に地方の視察を行う。

参加国:
〈拠点となるケニア、ガーナ及びタイを中心に、その周辺国から選定〉 アジア8カ国;タイ、ラオス、ヴァエトナム、マレイシア、フィリピン、バングラデシュ、カンボディア、スリランカ
アフリカ8カ国 ;ケニア、ガーナ、エティオピア、セネガル、タンザニア、ザンビア、ジンバブエ、象牙海岸

参加者:
全般的視野で寄生虫対策の施策を考えられる行政担当者及び国の衛生行政全般にアドバイス出来る立場にある専門家で、16カ国から20名が参加

1997年 バーミンガムサミット共同声明要旨関連分抜粋 “感染症及び寄生虫症に関する相互協力を強化しこれからの分野における世界保健機関の努力を支援すること。我々は、何億人もの人々が経験している苦しみを除去し、マラリアに起因する死亡率を2010年までに大幅に減少させるための、新たな「ロールバック・マラリア」イニシアティブを支持する。”


  今日、この国際寄生虫ワークショップが開催されますこの機会に、ご挨拶することをお許し頂きまして本当にありがとうございます。

 私は、1997年のデンバーサミットにおいて、各国の首脳に対し、国際寄生虫対策の重要性を指摘し、昨年5月のバーミンガム・サミットでは、わが国が作成した国際寄生虫対策報告書の内容にも言及しながら、具体的な方策として、次のような提唱を行いました。

 すなわち、「アジアとアフリカの2ヵ所に人造りと緊急活動のための拠点を作り、WHOとも協力してこのような拠点を含む連絡ネットワークを構築し、国際的な研究者の養成、研究者同士の情報交換等を向上させるため、G8ととも協力していきたい。」というものです。この提唱は、世界が協力して取り組むべき最優先課題であるとして、参加国すべての首脳から賛同を得ることができました。

 さて、私が、こうした問題に関心を持ち、先進国首脳会議でこれを取り上げ、先進国が力を合わせてこうした問題に取り組もうとしたバーミンガムサミットの結論を出したのには、私なりの思いがありました。
 第二次世界大戦に日本が敗れた時、私は当時小学生の二年生でした。そして、その頃の日本は、肥料が十分にありませんでした。その肥料に人間の排泄物を使う。結果としては、食物連鎖の中でまた、その寄生虫が人間の体内に食物を経由して入るという、そういった経験を持っておりました。
 また、非常に水の豊富な国でありますが、その水のために川に生息するみやいり貝という貝を媒体として各種の住血吸虫の危険も現実のものでありました。

 そして、長い戦争が終って、海外から引き揚げて来る方々の中には、マラリアに苦しむ方々も多くおられたのも実態です。
我々はまず、化学肥料を採用することにより排泄物を農業の肥料として使う習慣を捨て、これでまずひとつの対応を終りました。
 次に、媒体となる貝が住めない環境を河川につくり出すことにより、住血吸虫が日本から姿を消してすでに相当な時間がたっています。
 しかし振り返って考えてみた時、その敗戦後の非常に混乱した、物もお金も非常に乏しい時期、この寄生虫対策というものに対して相当の国費を投入してきた当時の日本の先輩達に、私は国民保健という立場を考えた時、心から敬意を表さずにはいられません。

 そして、1979年私が厚生大臣の頃、日本の寄生虫学会がたしか50周年を迎えられたと記憶しております。 そしてたまたま数年前、寄生虫関係の学者の方から話を聞く機会があり、日本では解決済みと考えられたいたこの問題が、世界全体を見た時まだまだ我々のやるべきことがたくさんあることを、あらためて感じました。
 そして現在ならまだ我が国にも寄生虫の専門家達が活躍しておりますし、これからもできます。しかしながら国内の大学で寄生虫の講座を持つ大学はしだいに減ってきました。
 すでに国内における寄生虫問題を解決した日本がその間に蓄えてきた知識を国際的に活用し、少しでも寄生虫問題に苦しんでおられる方々を、一人でも多く救うことが出来れば素晴らしい。こうしたイニシアティブをとった私の願いです。

 今、世界中にこうした問題に関心を持っていただいている方々はたくさんおります。しかし、往往にして、例えばギニアウォーム、これに対しての取り組み、あるいはマラリアに対しての取り組みなど、一つの疾病に片寄りがちです。
 しかし、世界地図の上にそれぞれ地域に分布する寄生虫を色で塗っていった時、同じ地域に何枚も何枚もの図面が重なることにすでにお気づきのことと思います。

 私たちは今、寄生虫に苦しむ方々を救うということばかりでなく、その寄生虫の宿主となる様々の生物の存在できない環境をつくり、しかも、その他の環境に影響を与えない手法というものが、それが何なのかということを見出さなければならないと思います。
 この問題に対して、このワークショップから良い答えを、あるいはそのヒントを是非見出していただきたい。そして、各国の政治家達も、また、そのお手伝いできるような方向性を示していただきたい。今日は、そんな思いを持ちながらここに立ちました。

 私達の体験から言っても農業の分野でなおすべきこと、河川改修の世界で取り組むべきこと、あるいは国民の食生活のあり方から変えていかなければならないこと、更に、地域の生活改善、様々な取り組みがあって初めて寄生虫対策というものが完成する。私達自身の体験の中から得た結論です。
 皆さんが、導き出して下さるその結論というものに夢をかけている政治家がいる。しかも、私一人ではなく相当たくさんの人達が、ここから生まれてくるものに多くの夢をかけている。そのことだけを知っていただければ、私がここに立った目的は全て達成です。

 良い結果を祈ります。ありがとうございました。