中央省庁等改革に関するセミナーにおける橋本大臣ご挨拶(要旨)
2000年12月18日

日時:2000年12月18日(月)午後2時〜2時35分
場所:経団連会館 14階 経団連ホール

 今回、このような機会を与えていただき、感謝している。

 今日は私なりに考えていることを率直にお話を申し上げるとともに皆様のご協力をお願いしたい。実はこの会にお招きをいただいたときに、担当大臣としてご挨拶をする予定は全くなかった。評論家風にお話ししようかと考えていたものが、自分が責任を持つ段階となり、いろいろお話ししにくい状況も出てきてはたと困った。しかし、できるだけ率直に私なりに感じていることを申し上げたいと思う。

 中央省庁は明年1月6日を期して、1府12省庁の体制がスタートする。せめて国の規模を半分くらいにしたいと考えたのが随分昔のような気がするが、ようやくここまで来た。その間に世の中は動いた。そして今になると、この分類の仕方自体に多少工夫を必要とするところも出てきたのではないか。これは、率直に私自身反省している。

  行革会議の席上で、例えば、私から「情報、通信、放送はいつまで今の形を保つのか。その将来図によっては組織を変えないといけないのではないか」という疑問を率直に申し上げた。しかし、放送関係の委員から「そういう現象面は似通ったとしても、ハード面が違うので、一緒の行政で行うのは無理だ」というご意見が出て、私の意見に賛成いただける方がいらっしゃらなかった。従来からの、通信は郵政省に、情報の世界は通産省に、その区分がそのまま総務省、経済産業省に残ってしまう結果となった。それから数年たち、インターネットが普及して、放送、通信、情報がすっかり入り乱れて、今までとは様相を異にしていて、なおも変化し続けている。そうした中で、今回、IT担当という職制が設けられ、縦割りの行政に対して横串で対応しようという仕掛けができた。もしかすると下手ないじり方をしないで、従来のものを横串で対応することになったのはケガの功名だったのかもしれない。しかし、IT担当閣僚がいかに機能するかは、お互いにいかにしてサポートするかにカギがあると思う。

  あるいは環境庁を環境省にしたい。そういう希望を持ち、実現をさせていただくことになった。しかし、気が付くと、新たに環境省としてスタートするから、それなりの装いをこらしてやりたいと思ったが、従来からの公務員同士の横並びの発想の中で、スクラップアンドビルドの原則で環境庁から省への昇格で対応しようとしている。環境省がスタート時からご期待に添えるかどうか一抹の不安を隠し切れない思いがある。

  また、あるいは行革会議の結論をいただいた時に、外務省の地域局を違った分類の仕方に変えたいと考えていた。例えば、欧亜局はヨーロッパとアジアを一つの局で見ている。また俗に飢餓局とも言われる中近東アフリカ局も相当無理がある。こうしたところを拡充すべきではなかったか。私が辞めた後に、どういったことがあったのか承知していないが、他の省庁が部局の削減を進める中で外務省は今までと同じ局数を維持して優遇された。しかし、新しい時代に対応するため、果たしてこのままでいいのかその疑問は消えていない。個別に見ると、私なりに問題点を感じることはあるが、逆にここまで予定通りに進めてきていただいた小渕内閣、森内閣の総理をはじめ関係者にご苦労をおかけして、お礼の気持ちでいっぱいである。

 今月1日に与党の方針に沿って行革大綱が閣議決定され、その上で行政改革担当閣僚をお引き受けすることになった。この中を拾ってみると、広範囲の問題が含まれている。1月6日以降、事務局を作って、その事務局の諸君と一生懸命取り組んでいくつもりだが、その中には私どもが直接担当する問題とその事務局の直接担当からは外れるが私自身が所管し、他の大臣と共同で作業を進める問題に大きく分かれる。

  直接自分の元に来るものとして、第一に特殊法人の問題がある。この問題は今まで努力しながら、特殊法人が作った子会社・孫会社にまで手を伸ばすことが出来なかったためにいつまでも残っている。もう一つは公務員制度の改革がある。ここ数年公務員に対する大変厳しい世間の風が当たってきた。これは風を生む事件があったといえばそれまでだが、その一部の不心得の公務員のために、これから先の人生をこの国のために働く若い諸君まで萎縮し、やる気を失ってしまっている。もう一度これを立て直し、国民に信頼を置いていただける公務員制度に再構築しなければならない。もう一つ、行政委託型の公益法人に関しては、国の関与の仕方を根本的に見直すことが必要である。大きく分けてこの3つは事務局の諸君と私自身が手がけていかないといけない問題である。

 規制改革の推進については、規制改革委員会が一生懸命作業を続けて下さり、先般見解を出していただいた。この見解を3月31日までに次の規制改革の3ヵ年計画としてお示しをすると同時に、そこから後の仕組みを用意しないといけない。私はいわゆる8条機関としてその次の委員会を作りたいと考えている。それが大きな役割を果たす原動力になると思う。

  そして、中央省庁等の改革については着実に進むように事務局の諸君がやってきたものをトレースしていく必要がある。課の数やその分類の仕方を巡って、多少混乱するかもしれない。気が付くと業務が重複の見られるものも出てくるかもしれないが、しばらくの試行期間を与えていただきたい。

  ここまでは私の担当として申し上げていいことだが、それ以外には関係の大臣とご協力しながら取り組んでいくものとして、地方分権の推進があり、公会計の見直し・改善があり、行政評価システムの導入があり、電子政府の実現があり、情報公開の推進、減量・効率化の推進、その他大綱に定められるあらゆる行革の問題がある。ある問題は行政管理局、ある問題は行政評価局、ある部分は財務省、総務省と共同戦線を張りながら、殊に電子政府の問題はIT担当とコンビを組んで進めていかないといけない。

 特殊法人等、行政委託型の公益法人、公務員制度は5年間という歳月を与えられているが、その作業そのものは最初の1年で終える決心で臨まなければならない。これに連綿と時間をかけることはできず、あるものは非公務員型の独立行政法人への移行、あるものは完全に民営化、あるものは廃止、場合によっては国に積極的に残すという判断をできるだけ早く決めないといけない。これから先の問題はあるが、私どもがそれだけの決意をもって取り組むことをご理解いただき、ご声援を願っている。

  今度の中央省庁の改革の中で一番力を入れてきたものについて、私自身の考え方を聞いてほしい。私は内閣総理大臣というものの権限をできるだけ強くすることが行革の中で非常に大切なことだと考え、中央省庁を設計した。その結果として、内閣府を設けて、経済財政諮問会議、総合科学技術会議をそこに置き、全体をカバーするという発想を持っていた。しかし、この点については、新たに大臣に就任してから、関係先から話を聞いても私自身まだもう一つすっきりしないものを残している。

  元々経済財政諮問会議を発想した時点では、例え方として乱暴かもしれないが、21世紀版「経済安定本部」を私としては作りたいと思っていた。この事務局には企画・立案の能力に優れた各省庁のより優りの人材だけでなく、任期付任用制度をフルに生かし、また年俸制も採用されており、むしろ公募で選びたい。各省から手を上げてもいいし、民間からも手を上げていただいてもいいが、この経済財政諮問会議の事務局で腕を奮いたいという人々が積極的に加わってもらえる事務局を夢見ていた。「そんなことを言っても危なっかしいので手を上げる人がいるか」という人もいるが、「博士課程を修了している人も最近増えているし、若い間に一度経験してみたいという諸君もたくさんいるだろうからいい人材が得られるのではないか」という人もいる。行革会議の最終報告をまとめた際に、内閣府の組織の在り方については、内閣府の企画・調整部門には「民間や学界を含め広く行政の内外から優秀な人材を登用する」人事ルールを確立すると明記した。そこには公募制や年俸制を活用することであり、任期付任用制度を活用する様々な思いがあった。

  それでは経済財政諮問会議では何をやるのかということになるが、短期の経済見通しと予算、経済対策がある。殊に予算編成の基本方針を審議していただく大事な役割があると想定していた。そこまでには経済見通しを作り、中間での見通しをしていただくこと、それに基づいて予算規模の大枠や重点事項や各省庁の予算要求の枠組みをお決めいただく役割もある。あるいは中長期の計画や構造問題にも触れていただかないといけない。経済構造と長期の経済見通しをお考え頂き、成長率の見通し、さらには中期の財政見通しをおつくりいただく。その中には社会資本整備等の各種の計画も入ってくる。年金、医療保険などを含む国民経済の総合的な検討の場でもある。私はこのようなことを描いていた。

  それだけに、ただ単に特定の省庁の特定の部局だけがここの事務局に集まればそれで役割ができるというものではないと考えている。そういう思いを持つ時、国民に対する説明責任もあると考えた。これまでこの面での政府の様々な対応が抜けていたために、何かをしようとした時に国民のご協力を得にくい状況を作り出してしまうこともしばしば私どもは体験した。この経済財政諮問会議の役割の中には、事実と判断と政策を国民に対して説明を行ってもらうのも重要な仕事としてある。それだけに、そうした役割を担っていくのに相応しい事務局が必要になる。それはもちろん官僚だけでなく、民間・学問の世界であれ、経済の世界であれ、たくさんの人材を得たい、公募制を活用したい。私がこのように申し上げてきた理由もそこにある。

 あるいは総合科学技術会議は、重点分野にいかに資源配分するか配分決定に関与していただくのが大事な役割である。それだけでなく、科学技術振興調整費等に対して、聖域なく個別プロジェクトの選定にも入ってもらいたい。小さなものまで入って頂かなくとも、大事な分野については総合科学技術会議が個別プロジェクトまで目を光らせる必要がある。そしてその資源配分の方針の提示、定性的な重点分野の例示に終わるのでは困るのであり、具体的な内容に基づいて、この会議が新たな役割を担えるような設計についてはまだ煮詰めているものも残している。またプロジェクトの評価もここにお願いしたい。選定に会議が関与できないはずはない。事務方に私の疑念を確認してみたところ、「総合科学技術会議は個別のプロジェクトまできちんと権限を行使することができる」との回答をもらったので私自身ちょっと安心している。

 そして、私の直接の所掌でない分野、しかし大事なものとして、規制改革もある。ここに重点を置く理由を一つこの機会にお聞きいただきたい。現在の規制改革委員会に見解を出していただき、その役割を3月31日に終えられた後の姿を私自身が考えていく、これに対していわゆる8条機関として後継の組織を作りたいと申し上げている。

  規制改革がいかに大事であるか、嫌と言うほど痛感したのは総理を辞めた後である。特許庁の職員が行った日米の技術比較、それぞれの特許公報を利用しての技術比較で、その中の一つに金融技術に関わるものがあった。日本の特許公報は届け出された時点で出されるが、米国は特許付与されてから公報にのる。金融技術についてはデリバティブ、セキュリタイゼーション、リスク管理の3つあり、日本では最初の二つが昨年の6月時点で申請がゼロだったのに対して、米国では既に複数の特許が出されていてバッティングまで起きていて、実用化され、それらを駆使した金融機関の営業が大きな収益源にもなっている。当然こうしたものはハイリスク・ハイリターンであるから、リスク管理のシステムについても複数特許がある。時間変数を組み入れたり、上下にアラームラインを設定したり、工夫の凝らされた特許が成立している。さすがにリスク管理については、日本でも2例申請されていたが、これはいずれも金融機関ではなく、コンピュータメーカーが自社の優位性を証明するために出されたものである。金融界そのものからは出て来なかった。

  なぜこういうことが起きるかというと、まさに縦割り行政でそれぞれの業態ごとに保護して、それぞれの部分を切り離してきたからだ。新たな境界領域に立脚する考案そのものを必要としていない状態が続いてきた。それがこの状況を生んでしまったと私なりに考えている。銀行は銀行、保険は保険、証券は証券、その境目に立脚する特許は、日本の規制行政の中では生まれてくるはずもなかった。それが今日、日本にこの点でダメージ、影響をもたらしている。規制改革はいくら言いすぎても足りることはない。足りすぎることはないと思っている。できるだけ白地を増やすことが新たな業の輩出を生み出す土台だと思っている。それだけに、規制改革については、私自身が関わるテーマとして、その検討機関をいわゆる8条機関として組織し、それなりに強い権能を発揮できるものにしたいと今考えている。

  以上、当面考えていること、与えられた条件の中で考えていることを粗々ご報告申し上げた。この後、河野事務局長から細かい話があるので、私の役割はこの当たりで終わりにしたい。

  今井会長、豊田前会長と行革に関しては、経団連にこれまで大変お世話をいただいてきた。これからも方向を間違えそうになった時には注意をしていただくのは結構だし、正しい方向に向かおうとしている時にはどうか出来得る限りのご声援を心からお願い申し上げたい。